【目的】カドミウム (Cd) は、環境中に広く存在する有害重金属であり、微量かつ長期曝露による健康影響が懸念されている。Cd慢性中毒の主症状として腎近位尿細管障害が知られている。我々は、Cd曝露マウスの腎臓およびラット由来腎細胞において転写因子RAR並びに PPARDの転写活性が阻害されることを見いだしている。RARおよびPPARDは、レチノイン酸 (RA) を共通リガンドとして下流遺伝子の発現を調節する。本研究では、ヒト由来の腎近位尿細管細胞(HK-2細胞)を用いて、Cd腎毒性とRA経路との関係を検討した。
【方法】各々の遺伝子をsiRNAでノックダウンさせたHK-2細胞のCd感受性をalamar blueアッセイで調べた。また、HK-2細胞をRAまたはその前駆体であるretinolで24時間前処理し、洗浄後、Cdで24時間処理してCd感受性を調べた。各遺伝子発現は、リアルタイムRT-PCR法で測定した。
【結果および考察】 HK-2細胞をCdで6時間処理したところ、3種類のRARサブタイプのうち、RARG mRNAレベルが顕著に減少し、RARGのノックダウンによって細胞生存率が有意に低下した。しかしながら、RARGノックダウンはCdの感受性に影響を及ぼさなかった。RAやretinolで前処理した細胞は、Cdに対して抵抗性を示したが、RARGをノックダウンしてもRAによるCd抵抗性は変動しなかった。一方、PPARDのノックダウンは、Cdに対して抵抗性を示した。さらに、PPARDノックダウン細胞をRAで処理すると、各単独処理群に比べて、Cd抵抗性が増強された。以上の結果より、RAおよびPPARDのノックダウンはCd腎毒性に対して保護効果を示すことが明らかとなった。さらに、RAによるCd耐性には、PPARD経路が深く関与していることが示唆された。