【目的】口腔領域において薬物投与後の有害事象に、口腔乾燥症や歯肉増殖症(GH:Gingival Hyperplasia)などがある。GHは抗てんかん薬や降圧剤あるいは免疫抑制剤の服用により発生することが報告されている。メタロチオネイン(MT)は重金属結合蛋白質のひとつで60~70アミノ酸残基で構成され、肝臓、腎臓および脳など多くの臓器で発現しており口腔領域でも歯肉や舌で認められている。我々は重金属投与により歯髄、唾液腺においてMTが合成誘導されることをすでに報告したが、本研究では降圧剤として知られるCa拮抗薬のAmlodipine処理後の歯肉細胞におけるMTの生理的意義について検討した。
【方法】マウス由来歯肉上皮細胞を通法に従って培養し、コンフルエント後にカドミウム(Cd)およびAmlodipineを添加し、経時的に細胞増殖および細胞毒性をWST-8 assayおよびLDH活性により評価後、全RNAを抽出した。qRT-PCRによりHprtの遺伝子発現を基準としてΔ-ΔCt法でMt遺伝子発現の経時的変化を観察した。
【結果】低濃度のCdおよびAmlodipine添加による細胞毒性や歯肉細胞の形態的変化は観察されなかった。qRT-PCRの結果からCdおよびAmlodipine添加によるMt遺伝子発現の増加が認められたがAmlodipine処理群はCd処理によるMt遺伝子発現の増加とは一部異なる特徴を示した。
【考察】MTの生理的意義としてCdなどの重金属毒性の軽減や亜鉛などの微量金属の恒常性維持作用などが広く知られているが、再生肝細胞や上皮がん細胞における発現誘導から細胞増殖への関与も報告されている。本研究ではCdやAmlodipineにより歯肉細胞にMT誘導が確認されたことから、歯肉のMTは重金属に対する防御作用だけでなく、薬物誘発性の歯肉細胞増殖に関連があることが示唆された。