【背景】バルプロ酸 (VPA) のげっ歯類に対する発達期曝露は自閉症モデルとして知られている。本研究では、ラットVPA誘発自閉症モデルに対する抗酸化物質α-glycosyl isoquercitrin (AGIQ) の保護効果について、海馬神経新生を指標に検討した。
【方法】妊娠ラットを溶媒対照群、VPA群、VPA+0.25% AGIQ群、VPA+0.5% AGIQ群に分け、妊娠12日目にVPA 500 mg/kgを単回、腹腔内投与した。AGIQは妊娠13日目から分娩後21日目まで母動物に、以降は児動物に混餌投与した。生後21日目 (PND 21) 及びPND 63に雄児動物の海馬歯状回の顆粒細胞層下帯 (SGZ)/顆粒細胞層 (GCL) における神経新生関連指標を免疫組織化学的に解析し、歯状回における関連遺伝子の発現をqRT-PCR法により解析した。
【結果】PND 21では、VPA群で対照群に比してSGZ/GCLにおけるSOX2陽性及びDCX陽性細胞数が減少したが、他の顆粒細胞系譜指標陽性細胞数は変動しなかった。歯状回門ではSST陽性及びCALB2陽性GABA性介在ニューロン数が増加した。一方、両AGIQ群ではVPA群に比してDCX陽性細胞数が増加し、0.5% AGIQ群では歯状回門のreelin陽性介在ニューロン数も増加した。PND 63では、VPA及びAGIQ群で顆粒細胞系譜指標陽性細胞数は変動しなかったが、0.25% AGIQ群でシナプス可塑性指標のFOS陽性細胞数が増加した。遺伝子発現解析では、PND 21にAGIQ群でVPA群に比してreelin受容体遺伝子、ドパミン受容体遺伝子及びアセチルコリン受容体遺伝子の発現が増加した。PND 63にはAGIQ群でAMPA型グルタミン酸受容体遺伝子の発現が増加した。
【考察】VPAの発達期単回投与は、幼若期にtype-2aとtype-3神経前駆細胞を標的とした神経新生抑制を誘発した。AGIQはVPAによる神経新生障害を軽減し、それにはreelinシグナルや神経伝達物質による外部入力の増加に起因する神経幹・前駆細胞の増幅の関与が示唆された。また、AGIQによる成熟後のシナプス可塑性の亢進も示唆された。