薬物は特定のタンパク質を標的とし、細胞内の生体分子経路全体の制御を誘導する化合物である。薬物の投与は、期待通りの効果をもたらす一方、毒性や副作用を引き起こすこともある。毒性や副作用の分子学的の発生機構はほとんど未同定のままである。近年、医薬品や化合物に関する様々な情報が公的に利用可能なデータベースに大量に蓄積されてきた。そのような情報は、化学構造、標的タンパク質、薬効、毒性、副作用など様々なデータを含み、その間の関係を計算器学的アプローチによって明らかにすることが期待されている。この研究では、化合物—標的タンパク質の相互作用という分子レベルでの情報と、化合物の毒性・副作用情報という表現型レベルでの情報という、異なるスケールでの情報を関連づける方法を提案する。我々は、スパース正準相関解析やスパースロジスティック回帰などの機械学習モデルを用いて、化合物の標的タンパク質相互作用データと化合物の毒性・副作用データの間の相関を解析した。分子経路情報を用いて相関セットのタンパク質エンリッチメント解析を行った結果、類似する分子経路で働くタンパク質は、分子機能が異なっていても同じ相関セットにクラスタリングされた。すなわち、ある相関セットにクラスタリングされたタンパク質の薬剤による機能制御は、同じ分子経路の活性、不活性化を通じて、同じような副作用を引き起こすのではないかと解釈することが出来る。今回提案した手法は、毒性・副作用の分子作用機序への議論を可能にするとともに、化合物の標的タンパク質プロファイルから化合物の潜在的な毒性・副作用を予測するのに有用であると期待される。