新規化合物の臨床試験において、薬物誘発性の心毒性は依然として大きな懸念材料となっている。心毒性を誘発する可能性が限りなく低い有望な候補品を選択するためには、非臨床試験において正確かつ効率的に評価することが最も重要な戦略の一つと考えられる。近年、非臨床in vitro、in vivoまたはin silico心臓電気生理学的安全性評価は充実してきており、薬物誘発性QT延長症候群の予測に関してはかなり精度が上がっている。薬物の心臓に対する影響としては心収縮性も含まれるが、非臨床段階ではうっ血性心不全を含む他の心血管系への有害作用は検出が困難なことが多い。非臨床試験における心収縮性の評価は依然として心負荷に依存する指数を用いている。特にLVdP/dtmaxは変力作用の指標として最も用いられているが、心臓への負荷条件が変わらない場合にのみ正確な評価が可能となる。QA間隔もしばしば用いられるが、心収縮性以外の多くの因子が関与しているため、これらのパラメータのみでは心収縮性を正確に解析できない。一方、pressure‐volume(PV)関係を用いた解析は変力作用を評価するためのゴールドスタンダードとして知られている。近年のPVカテーテル技術の進歩により、アドミッタンス法による左室(LV)PV解析の精度が向上している。この方法を用いたPV解析はげっ歯類で行われているものの、非げっ歯類ではほとんど行われていない。特にサルを用いた研究は毒性学分野において重要な位置付けとなっており、安全性薬理試験においてもサルは非げっ歯類動物種の一つとして用いられている。従って、新規開発品の潜在的な心毒性を評価するためにはPVループ法をサルに応用することで、信頼性の高い知見が得られると考えられる。今回は、非臨床試験における最新の心臓電気生理学的安全性評価に加えて、心収縮力などの血行力学的評価に対する新たなアプローチについて発表する。