除草剤として広く利用される4-ヒドロキシピルビン酸ジオキシゲナーゼ(4-HPPD)阻害剤は、植物ではカロテノイドの合成に関わるプラストキノン合成を阻害することにより、白化作用を示す。一方、動物においてはチロシン代謝を阻害するために高チロシン血症を誘発し種々の毒性を誘発するが、その作用には大きな動物種差が存在することが知られている。種差を検討する目的で、4-HPPD阻害作用を有するNTBCをWistar系ラット及びICR系マウスに52週間混餌投与し、眼球及び小脳の病理組織学的検査、並びに血漿中チロシン濃度の測定を実施した。その結果、NTBC投与ラットでは血中チロシン濃度が1603 μmol/Lまで上昇したが、マウスでは963 μmol/Lで1000 μmol/Lを超えなかった。病理組織学検査において、ラットでは角膜炎及び小脳プルキンエ細胞壊死に起因する分子層の空胞化が認められたが、マウスには悪影響は認められなかった。
ラットとマウスで認められた毒性の違いは、チロシン代謝において4-HPPDの上流に位置するチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)の活性に種差があり、4-HPPD阻害により生じた過剰なチロシンの排泄に違いがあることに由来する。ラットやウサギはTAT活性が低く、4-HPPD阻害により血中チロシン濃度が1000 μmol/Lを超えて上昇し、高チロシン血症由来の毒性が発現する。一方、マウスのTAT活性は高く、最大耐量まで4-HPPD阻害剤を投与しても血中チロシン濃度は1000 μmol/L未満で平衡に達する。高チロシン血症による毒性発現には閾値が存在することから、ヒトのチロシン代謝はラットではなくマウス型であるため、ヒトにおける4-HPPD阻害剤の毒性発現リスクはマウスに準ずると考えられた。