発達障がい(神経発達症)として整理される2つの精神神経疾患,自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)は,乳幼児期に顕在化し,多様な予後を示す。その有病率は,ASDが1~3%,ADHDが5~10%と報告されており,社会的な関心を広く集めている。ASD,ADHDの発症には,遺伝的危険因子(genetic risk factor)のみならず,既知の遺伝的変動(genetic variation)と関連のない危険因子,いわゆる「環境的危険因子」(environmental risk factor)の寄与があることが知られている。胎生期の栄養素の不足,重金属やアルコールへの曝露,胎生期~乳児期における大気中のディーゼル排気粒子,残留有機汚染物質,殺虫剤や農薬への曝露が,ASDやADHDの発症リスクを高めるとの報告がある。また,乳児期のデジタル機器への曝露がASD症状の形成に寄与するのではないかとの報告もなされたところである。演者は,児童精神科を臨床のフィールド,疫学を研究フィールドとする立場から,これらの知見の解釈のあり方について検討を加える。また,知見の不足に対して,研究者がどのようにアプローチすべきかについて,考察する。