ヒトにおける異物発癌は、齧歯類に比較して起こりにくいことが知られている。しかし、アスベストによる中皮腫や肺腺癌の発生といった事例、慢性炎症が絡んだ異物発がんには共通性があると考えられる。我々は、①のアスベスト投与後の大腸腸間膜、および、②ガラス板をした際のガラス板周囲の組織、の遺伝子発現の経時変化を解析した。
①C57BL/6雄マウスの腹腔内へUICCグレードのcrocidolite 108本(30μg)/0.5ml/animal (n=3)を投与し、投与後、2時間、4時間、8時間、1日、2日、および14日後にAffymetrix GeneChipによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。1日以降Wnt/catenin系などが発現上昇し、これら遺伝子群の上流解析に於いてHaRas、KRas、PTEN、TGFβ1など系の関与が示唆された。
②p53ヘテロ欠失C57BL/6雄マウスの背部皮下へ滅菌した10x5x1mmのガラス板を無菌的に埋植後、10週、15週、および20週後にAffymetrix GeneChipによる網羅的遺伝子発現解析を実施した(本条件に於いて25週以降に肉腫の発生を別実験にて確認済み)。経時的にEGR1やIL1Bを上流とし細胞移動、CTNNB1、TNF、WNT系などからの腫瘍細胞増殖を促進する系への効果が示唆された。
本発表では、最新の知見を導入しての遺伝子発現の経時変化から見たエピジェネティクスの変容に関する解析について論議したい(厚生労働科学研究費補助金による)。