再生医療や細胞治療に用いられる細胞加工製品は、複雑で動的な特性を持つ細胞を主成分として含む新しい医薬モダリティである。従って、その品質・非臨床安全性評価に既存の試験法がそのまま適用できるとは限らない。特に、製品中の細胞に由来する腫瘍形成リスクは、細胞加工製品特有の懸念事項であり、必要に応じて適切な試験法を開発しなければならない。腫瘍形成リスクの直接的原因となるハザードとしては、細胞加工製品への造腫瘍性細胞の混入が挙げられる。また、ES/iPS細胞加工製品の場合、原料となるES細胞やiPS細胞が元来の特性として良性腫瘍(奇形腫)を形成する能力を持つため、未分化なES/iPS細胞の最終製品での残存もハザードとなる。わが国では世界に先駆けて、このような不純物としての造腫瘍性細胞の高感度検出法が数多く開発されており、これらをまとめた文書も厚生労働省から発出されている。また、2016年からは、再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)と国立医薬品食品衛生研究所との官民共同研究(MEASURE)により、造腫瘍性関連試験法および非臨床体内分布評価法の多施設バリデーションが実施されている。さらに、MEASUREがリードする形で、Health & Environmental Sciences Institute(HESI)の細胞治療製品委員会(CT-TRACS)からは、造腫瘍性評価の国際的コンセンサスの必要性を唱えるポジションペーパーが発出されているほか、CT-TRACS内では試験法の更なる改善とバリデーションを目的とした国際実験コンソーシアムが活動を展開している。ICHやWHOのような各国規制当局に拘束力のある組織からは、細胞加工製品の品質・非臨床安全性に関するガイドラインは未だ発出されていないが、上記のような国内外の活動が、国際ガイドライン作成の環境醸成に大いに役立つものと期待される。