バイオテクノロジー応用医薬品(以下、バイオ医薬品)の開発は1980年代に始まり、エリスロポエチンやG-CSFを代表とするサイトカイン医薬品から、近年ではヒト抗体やヒト改変抗体など様々なバイオ医薬品が増加しつつある。エリスロポエチンやG-CSF、アンチトロンビンなど生体物質はヒトと動物で交差するケースが多く、薬理活性を確認できる限りは齧歯類などを用い開発が行われてきていた。ただし、薬理活性を示すがゆえに薬理活性が過剰に発現してしまうため、薬理作用の延長上にあるリスクやバイオ医薬品そのものの毒性を区別し評価する点がポイントとなってきた。一方で、近年のバイオ医薬品、特にヒト抗体をベースとしたバイオ医薬品は、齧歯類に交差せず、薬理活性を示さないケースが多いことから、非臨床試験に用いられる動物の選択が重要な課題となっている。バイオ医薬品の安全性評価で、動物種の選択などの留意事項は、ICH S6 (R1)ガイドラインに記載されているところである。動物種選択において、ヒト抗体においてはサルに交差することが多いため、サルを用いて非臨床試験を実施するケースが多くなっている。しかし、ICH S6(R1)ガイドラインでも、標的分子に単純に交差するだけではなく期待される生物活性の評価が推奨されている。さらにその上で、生物活性の生体への影響は必ずしもサルとヒトで同等であるとは限らず、非臨床試験で評価しきれない有害事象の発現があることが確認されている。非臨床試験で認められた所見、あるいは予測される影響の生物学的な意味を理解して、非臨床試験で評価出来ていること、出来ていないことを十分に把握し開発を行うことが重要となる。このようにバイオ医薬品を、サルを用いて非臨床評価する上で留意しなければいけないポイントを事例をもとに議論したい。