主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】甲状腺ホルモン(TH)は脳発達に必須であることから、TH低下をきたす化学物質で発達神経毒性(DNT)が懸念されている。DNTの有無を特定するガイドライン試験は多大な資源を要することから、簡略化したスクリーニング試験が切望される。米国環境保護庁が提唱する周産期投与での母児ラットの血中TH濃度への影響比較試験Comparative Thyroid Assay(CTA)が有望であるが、依然、多数の動物を要する。また、胎児の血液採取や低濃度域のTH測定など技術面での課題もある。我々は、供試動物を減らしたCTAで、児の脳のTH濃度測定や病理検査を追加する試験系の実用性検証に着手した。昨年の本会にて、TH合成阻害剤6-propylthiouracil(10 ppm)で母児ラットに50%超の顕著なTH低下や児に脳組織異常が検出されたこと、一方、肝代謝酵素誘導剤phenobarbital(PB, 1000 ppm)では母児ともに軽度なTH低下(約30%)に留まり、児の脳に組織異常はなかったことを報告した。今回、PBの投与量の妥当性や結果の再現性を確認した。【方法】PB 1000 および1500 ppmを妊娠ラット(10匹/群)に対して(1)妊娠6日から20日、(2)妊娠6日から哺育21日まで混餌投与し、TH濃度や脳の病理等を解析した。【結果および考察】1000 ppm群は昨年の結果を再現し、1500 ppm 群では設定濃度比以上に血中PB濃度が上昇したが、TH低下は同等もしくは軽微な増強であった。一方、妊娠期間中に全母動物で神経症状が発現し、児動物の生存率低下も認められたことから過量投与であった。以上の結果から、本試験は児のTH評価系として実用性があること、強力なTH合成阻害剤の結果をそのまま肝代謝酵素誘導剤には外挿できない可能性があることが示唆され、更なる研究が必要と考えられた。