日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-102
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副作用データベース解析と実験的手法を組み合わせた腸間膜静脈硬化症メカニズム解明へのアプローチ
*中尾 周平須賀 彩加大森 裕統Masaki FUJIWARA清水 忠三浦 大作戴 毅清宮 健一
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抄録

 長い歴史をもつ漢方薬は西洋薬に比べて副作用は少ないと考えられ、本邦の薬物治療の重要な選択肢の1つである。しかし、未だ多くの漢方薬の作用メカニズムが明らかになっておらず、稀に生じる重篤な副作用発生に対する予防及び治療法は確立できていないのが現状である。近年、山梔子(サンシシ)を含む漢方薬を長期間服用していた患者に、腸間膜静脈の線維性肥厚、石灰化による虚血性細胞壊死を伴う腸間膜静脈硬化症が生じることが報告され、厚労省からも注意喚起されている。しかし、本副作用において腸管切除が必要となるイレウス等を伴う重症例に陥る患者のリスク因子の詳細な情報や本副作用の発生メカニズムはほとんど明らかになっていない。このため、ビッグデータの詳細な解析や実験的手法による科学的根拠の確立と、それに基づいた予防及び治療法の開発が急務である。

 我々は、Japanese Adverse Drug Event Report(JADER)データベースから腸間膜静脈硬化症の発生リスクが高い漢方薬の特定を行った。その結果、山梔子を含む加味逍遥散や黄連解毒湯を服用している高齢女性で発生リスクが高まる可能性が示された。つぎに山梔子成分(ゲニポシドとクロシン)がヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECに与える影響を調べたところ、クロシン処置によって細胞増殖が抑えられることも見出した。さらに、本有害事象では腸管静脈の石灰化がみられる点及び、高齢者のリスクが高かった点から、石灰化に影響するカルシウム沈着と、細胞老化についてHUVECによる検討を行った。その結果、クロシン処置によって細胞老化の代表的な指標であるβ-ガラクトシダーゼの発現量が増加した。一方、カルシウム沈着への影響は、両成分ともなかった。本結果と腸間膜静脈硬化症の因果関係は更なる検証が必要だが、クロシンが何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された。

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