日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-132
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培養ラット小脳由来アストロサイトにおけるジフェニルアルシン酸によるカルパインの活性化
*根岸 隆之宇野 愛里佐々木 翔斗都築 孝允湯川 和典
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抄録

ジフェニルアルシン酸(DPAA)は茨城県で発生した井戸水ヒ素汚染事故の主因物質として知られる有機ヒ素化合物である。これまでの研究から、DPAAの脳内標的細胞はアストロサイトであり、培養ラット小脳由来アストロサイトにおいて濃度・時間依存的に細胞増殖亢進とそれに続く細胞死を引き起こし、酸化ストレス応答因子(Nrf2、HO-1、Hsp70)の発現誘導、MAPキナーゼ(p38MAPK、SAPK/JNK、ERK1/2)の活性化、および転写因子(CREB、c-Jun、c-Fos)の活性化といった異常活性化を明らかにしてきた。本研究では、DPAAによるアストロサイトの異常活性化におけるカルパイン(種々の神経変性疾患などで活性化するプロテアーゼ)の関与を検討した。まず、培養ラット小脳由来アストロサイトにおいて10 µM DPAAを96時間ばく露すると、カルパインの代表的な基質であるαII-スペクトリンの切断産物が出現した。そして、カルパイン阻害剤ALLNは、10 µM DPAAによる細胞増殖を抑制し、かつ50 µM DPAAによる細胞死を完全に抑制した。また、ALLNは、10 µM DPAAばく露時のαII-スペクトリンの切断を抑制した。そして、DPAAによるHsp70の発現誘導を増強し、ERK1/2とSAPK/JNKのリン酸化亢進を抑制した。一方で、ALLNはDPAAによるCREBのリン酸化亢進には効果がなかったが、c-Junの発現誘導とリン酸化亢進を増強した。そのうえ、c-Fosについては、DPAAによるその発現誘導を変化させずにそのリン酸化亢進を抑制した。以上の結果から、アストロサイトにおけるDPAAによる異常活性化におけるカルパインの関与が明らかとなったが、その様態は複雑でありカルパインの活性化は増悪因子でもあり抵抗因子でもあると考えられた。

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