主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
エポキシ樹脂Bisphenol A diglycidyl ether (BADGE)は缶詰,飲料缶の内面コーティング剤として用いられているが,微量の食品中への移行ならびにエストロゲン活性が報告されている.われわれはこれまでに, BADGE (1.5 mg/kg/日)をマウスの妊娠全期から授乳期にわたり固形食餌に混ぜて投与した母体からの新生仔マウスの大脳皮質では,radial gliaおよびneuronal progenitor cellの減少や大脳皮質層構造の形成といった早期の神経分化がみられ,若年期に不安様行動が惹起されることを報告してきた.また,初代培養大脳皮質神経細胞へのBADGE (1-100 pM)の2日間曝露により著明な神経突起伸長をきたすことを報告してきた.今回, BADGE曝露による産仔脳発達異常におけるBisphenol A関連伝達系エストロゲン受容体β (ERβ)の関与について検討した.妊娠全期から授乳期にわたりBADGEに曝露した母体からの新生仔マウス (1日齢)では,大脳皮質におけるERβ陽性シグナルの増加が見られた.胎生15日齢SDラットからの初代培養大脳皮質神経細胞へのBADGE添加により認められる著明な神経突起伸長は,ERβアンタゴニストICI182,780とG蛋白質共役型ERβ(GPER)特異的アンタゴニストG15により抑制された.以上より,BADGEへの曝露は,ERβのシグナル伝達系を介して早期の神経分化をもたらす可能性が示唆された.