主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【背景】新型コロナウイルス感染は、呼吸器障害だけでなく肝障害も引き起こす。肝障害はCOVID-19重症化リスクとの関係性が示唆されることから、COVID-19患者における肝障害の病態解明が求められる。肝臓は不均一な臓器であり血管周辺と胆管周辺の肝細胞の間で性質が異なっているため、ウイルスを含む異物に対する応答能が異なる。このため、COVID-19患者における肝障害研究には、肝臓の不均一性を加味したモデルが必須である。そこで本研究では、臓器チップ技術を用いて、肝臓チップを開発し、COVID-19病態解明と創薬研究に応用した。
【結果・考察】隔膜型マイクロ流体デバイスに肝細胞および血管内皮細胞を搭載することで血管を持つ肝臓チップ(bv-LoC)、肝細胞および胆管上皮細胞を搭載することで胆管を持つ肝臓チップ(ibd-LoC)を構築した。両モデルは生体肝臓における血液および胆汁成分の選択的輸送活性を再現できた。SARS-CoV-2感染によって、bv-LoCの肝細胞において強い細胞毒性や脂肪化、線維化が促進されたが、ibd-LoCでは見られなかった。COVID-19患者血清を解析したところ、肝障害マーカーであるASTおよびALT値の異常が軽症患者よりも重症患者で高頻度に見られた一方で、肝胆道障害マーカーであるALPおよびT-BIL値の異常頻度に差はなかった。また、bv-LoCで見られた肝障害は抗ウイルス薬であるレムデシビルと抗炎症薬であるバリシチニブの併用により軽減することを見出した。
【結論】本研究において開発した肝臓チップ(bv-LoCとibd-LoC)を用いて、COVID-19患者における不均一な肝障害を再現できることを示すとともに、治療薬の探索が実施できることを明らかにした。