主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】多様な医薬品において、掻痒感を伴う種々の副作用が報告されている。また、薬剤性掻痒症の発症機序や誘発医薬品の特徴には未解明な部分が多い。そこで、有害事象自発報告データベースを用いて掻痒感を誘発する医薬品を抽出するとともに、発症機序に関連する生化学経路の解析を試みた。
【方法】国際医薬用語集(MedDRA)を用いて掻痒感に関連する副作用語を定義した。FAERSに報告されている医薬品を解析対象とし、各医薬品と掻痒感の副作用に関する報告オッズ比とフィッシャーの正確検定によるP値を網羅的に算出した。両統計の散布図(Volcano plot)を描画することにより、医薬品の掻痒症誘発傾向を可視化した。さらに、報告オッズ比を用いて主成分分析を実施するとともに、算出された主成分に基づく階層型クラスター解析を実施した。一方、医薬品の核内受容体・ストレス応答パスウェイに対するアゴニスト・アンタゴニスト活性を機械学習QSARモデルによって予測することにより、掻痒感の発症と関連する生化学経路を探索した。
【結果・考察】Volcano plotにより、全身用抗菌薬、眼科用薬、造影剤、皮膚科用抗真菌薬、抗悪性腫瘍薬等が主要な誘発医薬品であることを確認した。主成分分析の結果、第一主成分は発症頻度、第二主成分は粘膜系/皮膚系の別、第三主成分は外科処置の有無を示す指標として解釈できた。階層型クラスター解析において、全身用抗菌薬、免疫抑制薬、抗悪性腫瘍薬等が第一主成分と強い相関を示した。外科処置無しで用いられ粘膜上に掻痒を誘発する医薬品は、リバビリン、テラプレビル、アダリムマブ、エタネルセプト、ペグインターフェロンα-2aであった。関連する生化学経路を探索した結果、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)、プロゲステロン受容体(PR)、プレグナンX受容体(PXR)が有意な相関を示した。以上の知見は、臨床において掻痒症を回避するための薬剤選択に応用できるものと期待される。