主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
自殺や自殺念慮の多くは個人の危険因子が原因となっており、危険因子のひとつである精神疾患において、自殺の恐れが最も高いのはうつ病である。双極性障害、アルコール・薬物依存症や統合失調症などもそのリスクが高く、自殺念慮を抱いている時には少なくとも抑うつ状態が併発している場合が多い。自傷行為は自殺と密接に関係しており、その行為は精神科医などの介入のシグナルと考えられている。自殺や自殺念慮の根底にはストレスや不安があるため、治療としてはその原因を突き止め、問題を解消することに主眼が置かれる。薬剤による自殺念慮については、向精神薬の抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の添付文書には、自殺企図のリスク増加に関する注意が追加されている。これは、両薬剤の副作用のひとつであるアクチベーションシンドローム(賦活症候群)によることが示唆されている。しかし、非臨床や臨床において自殺や自殺念慮について詳細に検討されていないため、生物学的機序は解明されていない。したがって、それらを予測・注意喚起したり、治療したりすることは困難である。一方、自殺と関連の高い自傷行動については非臨床において、げっ歯類に覚醒剤のメタンフェタミンの高用量を投与により胸の皮を激しく引っ張る・噛むなどの自傷行動が発現されることが知られている。自傷行動は統合失調症でも認められ、ドパミン神経系の過剰な活性化が関与していることが示唆されている。本シンポジウムでは、自殺・自殺念慮の臨床での実際について整理し、非臨床の一般的な毒性試験で予測することが可能かどうか、行動薬理学的に向精神薬との関連性について紹介したい。