主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【目的】薬剤性肺障害は、様々な薬物によって引き起こされ、肺線維症などの重篤な転帰を辿るため、臨床上問題となっている。しかしながら、有用な診断法がないために薬物の中断などの判断が困難である。我々は、複数の肺障害性薬物が肺胞上皮細胞において上皮間葉転換(EMT)を誘発することによって、肺線維症に関与する可能性を見出しており、その過程にmicroRNAが関与することも明らかにしている。本研究では、ブレオマイシン(BLM)によって作出した薬剤性肺障害ラットから肺を単離・解析することで、上皮間葉転換と関連したmicroRNAを同定し、薬剤性肺障害に対するバイオマーカーとしての有用性について検討を行った。【方法】BLM溶液を経肺投与し、3、7および14日後の肺を単離し、サンプルとして用いた。組織中のmRNAおよびタンパク質発現は、real-time PCRおよびwestern blotによってそれぞれ評価を行った。【結果・考察】BLMの投与後14日後に肺線維症マーカーであるhydroxy prolineが増加したが、7日後には変動は認められなかった。一方、EMTの挙動を示す上皮系マーカー因子の減少および間葉系マーカー因子の増加は、7日後から認められ、肺の線維化に先だって生じる可能性が示唆された。また、当該肺障害モデルラットから得られた血漿、気管支洗浄液中において、miR-222がBLM投与後3日目から増加傾向が認められたことから、薬剤性肺障害を早期に診断するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。本研究は、肺胞上皮細胞におけるEMTが重篤な病態に至る前に生じる可能性を示した初めての知見であるとともに、比較的侵襲性の低い気管支洗浄液中のmicroRNAの検出によって早期診断が可能性であることを示した重要な基礎的知見を提供するものである。