主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
一部の多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)は生体内に入ると主にマクロファージに取り込まれ、そのマクロファージストレス応答により慢性炎症が起きると考えられている。しかしながら、マクロファージがどのようにCNTsを認識するか良く判っていない。最近我々は、CNT認識受容体としてマウスT cell mucin immunoglobulin 4 (Tim4) を同定したが(Omori et al., Cell Rep., 2021)、ヒトにおいてはTim4以外のCNT認識受容体が存在することが判ってきた。そこで本研究では、マウスTim4のCNT認識部位の三次元類似構造をもつ受容体のin silico screenを行い、新規ヒトCNT認識受容体としてsialic acid-binding lectin (Siglec)-5およびSiglec-14を同定することに成功した。ヒト単球系細胞株THP-1にSiglec-5およびSiglec-14を遺伝子導入したSiglec-5/THP-1とSiglec-14/THP-1は共に親株THP-1と比較して有意に高いMWCNT認識能を示した。MWCNTsの貪食およびIL-1βの分泌亢進はSiglec-5/THP-1ではなくSiglec-14/THP-1によってのみ認められた。この炎症応答はSyk阻害剤のR406でも有意に抑制された。この結果と一致して、CRISPR/Cas9システムによりspleen tyrosine kinase(Syk)遺伝子を欠損させたSyk null Siglec-14/THP-1ではMWCNTsによる炎症応答が認められなかった。以上の結果から、Siglec-14はSykを介するリン酸化シグナル伝達経路によりMWCNTsの貪食と炎症性サイトカインの分泌を誘導することが示唆された(Yamaguchi et al., Nat. Nanotechnol., 2023)。