主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
細胞へのシグナル入力後の超早期に起こる薬剤の主作用や毒性発現の分子機序を解明するには、関与するシグナル伝達タンパク質群の時空間ダイナミクスをネットワークとして一度に捉えることが必要である。我々の開発したPLOM-CON (Protein localization and modification-based covariation network) 解析法は、細胞への特定の刺激に応答して活性化・不活性化するタンパク質群の「量」「(共)局在」「質(リン酸化などの翻訳後修飾)」の時間変化を免疫蛍光染色画像から定量化し、特徴量の時間相関が強いもの同士をエッジ(線)で結んだ「共変動ネットワーク」として視覚化したものである。本手法の適用例として、インスリン刺激を与えたラット肝H4IIEC3細胞における〜50のタンパク質について共変動ネットワークを得た結果、インスリンシグナルの中心分子であるAktとそのリン酸化体p-Akt(Ser473)がネットワークのハブであることがわかった。さらに、p-GSK3βを含むグリコーゲン合成に関わるタンパク質群は主にアクチンドメイン(インスリンに応答し一過性に形成される構造体)において時間的同調性を示すことに加え、アクチンドメインの形成阻害によりグリコーゲン合成が阻害されたことから、アクチンドメインはインスリンシグナルに応答してグリコーゲン合成を制御するタンパク質分子の集積地であることが明らかになった。また、CK666処理によりアクチンドメイン形成を阻害する(糖尿病の肝臓細胞状態を再現できる)条件で作成したネットワークは、コントロール条件のものに比して形が大きく変化することがわかった。このように、本手法は場所依存的なタンパク質機能の解明に寄与するのみならず、特定の刺激に対する細胞状態の変化を鋭敏に表すため、細胞の正常性検証や薬剤の毒性検定にも応用可能である。