主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
ナノテクノロジーの急速な発展により、様々なナノ粒子の応用が進んでいるが、酸化チタン(TiO2)ナノ粒子は、生物・医学、農業・食品など特に幅広い分野で利用されている。しかし近年、TiO2粒子の急性経気道曝露は肺における炎症・線維化を誘発する可能性が報告されており、またその詳細なメカニズムも明らかになっていない。そこで本研究では、TiO2粒子が急性肺炎症を惹起する分子機構の一端を明らかにすることを目的とし、細胞死の一種であるネクロトーシスに着目した。TiO2粒子を気管内投与したマウスの肺組織について、免疫組織化学染色によってネクロトーシスのトリガー分子であるpMLKLの発現を評価し、また同肺組織において暗視野顕微鏡観察を行い、TiO2粒子の肺組織における局在を評価した。その結果、曝露24時間後においてTiO2粒子を貪食したマクロファージでpMLKL陽性像が多数認められたが、曝露72時間後にはTiO2粒子およびpMLKL陽性像は減少していた。また、TiO2粒子気管内投与後の気管支肺胞洗浄液中を回収し、炎症細胞数およびケモカイン(CCL2、CCL3)濃度を測定した。その結果、曝露24時間後において炎症細胞数、ケモカイン濃度のいずれについてもコントロール群より有意に増加し、さらにネクロトーシス阻害剤の腹腔内投与によってそれらの増加は抑制された。一方、曝露72時間後には、24時間後に比べて炎症細胞数およびケモカイン濃度は減少しており、ネクロトーシス阻害剤による効果も減弱した。以上の結果より、TiO2粒子曝露後、主に肺胞マクロファージが起こすネクロトーシスは、曝露24時間前後までの急性期において肺炎症反応を制御していることが示唆された。本研究の成果は、未だ解明されていないTiO2粒子曝露による短・中期的な肺炎症の機序を明らかにする上で非常に重要な知見になることが期待される。