主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
我々は、抗がん剤であるシスプラチン(CDDP)による腎障害の詳細な機序を解明するために、マウス近位尿細管S1, S2, S3領域由来不死化細胞(S1, S2, S3細胞)を用いて検討を行ってきた。これまでの検討により、S3細胞はCDDPに対して高い感受性を示すこと、その一因としてCDDPを添加したS3細胞では、活性酸素(ROS)量が顕著に増加することを見出した。本研究では、CDDPとROS産生剤のパラコート(PQ)添加による細胞応答を比較することで、S3細胞のCDDPに対する脆弱性に関わる機序を明らかにすることを目的とした。細胞内遊離Fe2+量を比較したところ、S3細胞で高い値を示した。また、CDDP添加によってFe2+量はS3細胞において顕著に増加した。細胞内で生じたROSは細胞膜リン脂質に含まれる不飽和脂肪酸を酸化することが知られている。そこで、CDDP, PQ添加後の過酸化脂質量について検討したところ、S3細胞において過酸化脂質量が著しく高いことが明らかとなった。また、生体内で生じた過酸化脂質を還元するグルタチオンペルオキシダーゼ4の発現量を細胞間で比較したところ、PQ添加ではいずれの細胞においても発現量は増加したが、CDDP添加ではS3細胞においてのみ減少した。CDDPに対するS3細胞の高感受性に鉄依存的な脂質酸化反応を伴う細胞死であるフェロトーシスが関与するのか検討したところ、フェロトーシス阻害剤Ferrostatin-1によってCDDPによる細胞死が抑制された。以上のことから、S3細胞がCDDPに対して高感受性を示す原因として、フェロトーシスが一部関与していることが示唆された。今後、CDDPによるS3細胞特異的な遊離Fe2+の増加と過酸化脂質量の増加との関係を検討することで、近位尿細管の領域特異的な障害発生機構の解明を目指したい。