日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-089S
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学生ポスター発表賞 応募演題
ポリペプチド系抗菌薬による腎機能障害発症の新たなメカニズムの解明
*鈴木 若奈鍵 智裕平田 祐介野口 拓也松沢 厚
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抄録

 コリスチンは、グラム陰性桿菌に対して優れた殺菌作用を示す環状ポリペプチド系抗菌薬である。近年、コリスチンは既存の抗菌薬が無効とされる多剤耐性グラム陰性桿菌に対する最終救済薬として注目を集めている。しかし、コリスチン投与により頻発する腎機能障害が大きな障壁となり、現状では臨床での使用が制限されている。従って、コリスチンによる腎機能障害発症メカニズムの解明は急務の課題である。NLRP3インフラマソームは、免疫担当細胞であるマクロファージなどに発現するタンパク質複合体であり、その活性化は炎症性サイトカインIL-1βの細胞外分泌を誘導して炎症反応を引き起こす。また、NLRP3インフラマソームの過剰活性化は、腎機能障害を含む様々な炎症性疾患の発症に関与することが知られている。そこで我々は、コリスチン誘導性腎機能障害におけるNLRP3インフラマソームの関与について検討した。

 マクロファージにコリスチンを処置すると、NLRP3インフラマソームを介したIL-1βの著しい分泌が認められた。実際にマウスを用いてin vivoでのコリスチンの作用を検討したところ、コリスチン投与による腎機能障害マーカーの上昇および腎組織の障害性の形態変化が、NLRP3インフラマソームの阻害剤で強力に抑制された。さらに興味深いことに、コリスチンは近位尿細管細胞に作用し、免疫担当細胞の分化・浸潤の促進因子であるM-CSFやMCP-1の発現を誘導して、マクロファージの腎への浸潤を誘引していることが示唆された。以上から、コリスチンは近位尿細管細胞においてマクロファージの浸潤促進因子を誘導する作用と、腎に浸潤したマクロファージのNLRP3インフラマソームを活性化し、炎症反応を誘導するという二つの作用により、強く腎機能障害を惹起すると考えられ、これまで長らく不明であったコリスチン誘導性腎障害の分子実態が初めて示された。

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