日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-090S
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学生ポスター発表賞 応募演題
ベンゾピレン誘導性細胞老化ががん悪性転化へ及ぼす影響
*北本 夏子芳賀 優弥辻井 勇気辻野 博文東阪 和馬堤 康央
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抄録

【目的】ベンゾピレン(BP)などの生体外化学物質は、肺がんをはじめとするがんの発生に関与しているという報告がある。一方で、原発巣が転移性腫瘍に変化する過程や、薬物治療後の残存腫瘍が再び増殖期へと変化する過程であるがん悪性転化に関して生体外化学物質が及ぼす影響はほとんど知られていない。また、近年、新たながんの悪性転化のフェノタイプとして細胞ストレスによって誘発される細胞周期の不可逆的な停止状態である細胞老化が注目されている。増殖が抑制される細胞老化はがん抑制的に機能すると考えられていたが、近年、周囲の正常細胞の増殖能亢進や薬剤耐性獲得に寄与していることが報告され、がん促進的な一面についても解明が進んでいる。そこで本研究では、代表的な発がん物質であるBPをモデル化学物質として、細胞老化とがん悪性転化への影響解析を試みた。【方法】エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん細胞株MCF7に3日間のBPを曝露させ、細胞老化を誘導した際の細胞老化関連分子の発現および局在変動、細胞増殖能をはじめとする表現系の変化を評価した。また、表現系については、細胞老化を誘導したのちBP不含培養を続けた際の変化も継続的に評価した。【結果・考察】まず、3日間のBPの処置により、p21などの細胞老化マーカーの発現増加が認められ、細胞老化の誘導が示された。さらに、細胞老化により細胞増殖を停止していた細胞がBP不含培地での培養によって再増殖を始め、同時に低下していたコロニー形成能の回復する傾向が示された。また、BP結合分子であるAhRやERの核内移行に続いて、細胞老化マーカーであるp21やγH2AXの発現上昇が認められた。トリプルネガティブ乳がん細胞株4T1では細胞老化が起こらなかったことから、現在、AhRやERがBP誘導性の可逆的な細胞老化に寄与している可能性を考え、その機序解明を進めている。

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