主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
グリオブラストーマ(GBM)は難治性の脳腫瘍であり、新たな治療法の開発が急務である。GBM患者組織の遺伝子発現に関するin silico解析から、セレノプロテインP(SeP)の発現量が多い患者で予後が悪いことを見出した。更に興味深いことにSeP遺伝子のアンチセンス鎖にコードされる遺伝子、CCDC152の発現が高い脳腫瘍は、悪性度の高いGBMと相関することが示唆された。そこで我々は、本遺伝子座が脳腫瘍の悪性化に関与するメカニズムの解明を目指した。 SePとCCDC152遺伝子の発現が認められるグリオブラストーマ細胞株T98G細胞に対してSePおよびCCDC152のsiRNAを処理することで、GBMの増殖抑制が認められた。SePは受容体であるApoER2を介して細胞増殖作用を示すと考えられる。ApoER2 siRNAによって確かに細胞増殖は低下し、SePとApoER2の二重発現抑制では相加的な作用は認められなかったことから、SeP/ApoER2は同一経路で細胞増殖作用を発揮していることが示された。一方、CCDC152を発現抑制するとApoER2のタンパク質レベルが低下した。ApoER2発現抑制細胞のRNA-seqでは、細胞周期関連遺伝子が大きく変動したこと、および発現抑制により細胞分裂周期がM期でアレストされる現象が観察されたことから、SePおよびCCDC152は少なくともApoER2を介した細胞分裂の亢進によってGBMの増殖促進に関与していると考えられる。ApoER2はセレン取り込み促進を介した抗がん剤によるフェロトーシス耐性獲得に関与することも知られる。CCDC152の発現抑制によってフェロトーシス耐性因子であるグルタチオンペルオキシダーゼ4の発現が低下するとともに、フェロトーシスが増強することが明らかとなったことから、上記機構は抗がん剤耐性獲得にも関与することが示唆された。