主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
手足症候群は抗がん剤治療時にみられる掌や足底に発現する副作用であり,フッ化ピリミジン系抗がん剤やキナーゼ阻害剤において高頻度で発現する。手足症候群では,掌や足底の感覚異常,発赤,色素沈着等から始まり,悪化すると角化亢進,腫脹,及び疼痛を伴う。本副作用は患者様の日常生活を制限しQOLを著しく低下させるが,発症メカニズムの詳細は明らかでない。メカニズムを解析し治療法や予防法を確立するため,フッ化ピリミジン系抗がん剤であるテガフールを用いてモデル動物の確立・解析を行ったので報告する。
動物モデルは8週齢の雄性SDラットに170 mg/kgのテガフールを35日間連続経口投与して作製した。投与期間中は一般状態観察,体重測定,Randall Selitto法による疼痛閾値検査,SCANETを用いた行動量測定を行い,投与終了後に病理組織学的検査及び皮膚(後肢及び腹部)の組織中薬物濃度測定を行った。
その結果,投与開始から20日前後で両側後肢に肢底の乾燥及び亀裂がみられ,その後経時的に増悪し,肢底の硬化,亀裂部の出血などを伴う顕著な症状が観察された。この症状は前肢にも及んだ。症状悪化に伴い,圧痛刺激に対する疼痛閾値の低下及び行動量の低下がみとめられた。病理組織学的検査では角化異常,落屑,表皮の肥厚,有棘層を中心とした海綿状変化(spongiosis),及び炎症反応が観察された。腹部皮膚には所見は認められなかった。組織中薬物濃度は腹部皮膚に比べて後肢足底皮膚で5-FU濃度が高かった。以上,本モデルで観察された臨床的特徴(疼痛反応を含む)及び病理組織学的特徴はテガフールを含むフッ化ピリミジン系抗がん剤による手足症候群の報告と類似し,その発症メカニズムに病変部位への5-FUの蓄積が関与することが示唆された。今後の手足症候群に対する治療法・予防法を検討するうえで非常に有用なモデルになると考えられた。