日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-1
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シンポジウム3: 生体金属部会シンポジウム 〜金属毒性学の50年史とこれからの50年にかける期待〜
推理する毒性学からバイオオルガノメタリクスへ
*鍜冶 利幸
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抄録

「推理する毒性学」とは,研究対象の化学物質の毒性に関する再現性のある科学的知見を収集し,それらを関連づけることによってその化学物質の人に対する毒性を説明する演繹法的思考方法による毒性学をいう。事故性・事件性のある中毒事例では,曝露条件の再現が不可能あるいはきわめて困難であり,そのような場合は「推理する毒性学」は有効である。この思考方法をもとに,カドミウム,鉛およびメチル水銀の環境毒性学に取り組んだ。その際,環境汚染物質の毒性発現の場は標的となる器官の実質細胞であると考えるという常識にとらわれずに「血管の毒性学」を開拓した。その結果,カドミウム,鉛およびメチル水銀による血管病変の理解だけでなく,例えばメチル水銀の神経毒性に血管毒性が関与し得るという新知見を得ることができた。一方,毒性学は“現実の科学”である。研究対象となる化学物質は人への曝露が確認されているものあるいは人が曝露する可能性のあるものに限られ,その実験的曝露濃度および曝露時間は現実的に起こり得る範囲に限られ,毒性の指標は現実に観察されたものが中心となる。その壁を越え,金属が持つ強い生物活性を活かした新しい分子プローブによって生体機能解析研究に発展させることを着想した。すなわち,有機-無機ハイブリッド分子を活用する新しい研究戦略バイオオルガノメタリクスである。有機-無機ハイブリッド分子の細胞毒性を調べ,その特性とメカニズムを明らかにする研究から開始した。次いで,有機-無機ハイブリッド分子を分子プローブとして,血管内皮細胞のメタロチオネイン誘導機構,内皮細胞のプロテオグリカン合成調節機構および内皮細胞における超硫黄分子合成機構の解析を行った。以上の研究の展開,得られた新知見,さらには毒性学研究を自由に発展させることの重要性について確認し,それによって毒性学の未来に少しでも貢献したいと考えている。

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