日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-5
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シンポジウム3: 生体金属部会シンポジウム 〜金属毒性学の50年史とこれからの50年にかける期待〜
鉛毒性学の50年と今後への期待
*藤田 博美杉本 智恵若尾 宏
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抄録

① タンパク質レベルの話;50年近く前、鉛貧血をテーマとし、酵素学的解析を主とする研究を始めた。試験管内での鉛による酵素活性阻害機構、鉛阻害からの活性賦活化機構が明らかとなり、ほぼ同じメカニズムで生体内の酵素活性が決定されることが示された。更に、鉛特異的と考えられていた酵素阻害が、生体内でエポキシドを形成する薬物の曝露によっても引き起こされることが判明した。

② 代謝系レベルの話;酵素阻害による終末代謝産物の減少で、律速酵素の負のフィードバック制御が肝臓では解除されることが判った。一方、造血系の律速酵素は終末代謝産物により正に制御された。これらの調節に関わると考えられる、終末代謝産物が制御する転写因子が発見され、環境ストレス応答および細胞分化に関与することが明らかにされている。このような国内外の研究成果に基づき、終末代謝産物を利用した遺伝疾患の発症予防が2011年国内でも認可された。

③ 細胞レベルの話;前世紀末から、既に暴露は終わり、長期の潜伏の後、悪性腫瘍発症を待つばかりの職業病が問題となっている。マウスのNKT細胞研究から、ヒトの細胞レベルでの対応が可能ではないか、と考えた。ネックとなったのはマウスとヒトで細胞数が極端に異なることであった。ヒトに多く分布し性質の類似するMAIT細胞を用いた研究をスタートした。7年後、多剤耐性抗酸菌感染症に対応できることが判った。が、マウスでの分布が希少なため、動物実験での抗腫瘍効果の検出に困難があった。更に10年が過ぎ、マウスの実験系の樹立によって、見通し可能となった。

④ 余話として;40年ほど前から、鉛中毒で未解明であった神経症状のメカニズムが明らかとなり始めた。残念ながら、神経系の解析能力がなく、参画できなかった。更に、二価金属としての複製ミスによる突然変異の誘発、鉛を含むRNA酵素の存在など、進化の方向付けへの寄与も想定できる。

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