日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-1
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シンポジウム4: ミクログリア毒性学
メチル水銀毒性とミクログリア
*黄 基旭
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抄録

メチル水銀は脳神経障害を引き起こす代表的な環境汚染物質の一種である。近年、妊婦の魚食を介したメチル水銀曝露による胎児の健康被害は世界的に懸念されている。しかし、メチル水銀による脳神経障害に関わる分子機構に不明な点が多く残されている。我々はこれまでに、メチル水銀がオンコスタチンM(OSM)やTNF-α、IL-1β、CCL2などの炎症性サイトカイン類の発現誘導を介して細胞死を誘導することを、マウス神経幹細胞株を用いた検討により明らかにしてきた。また、上記の炎症性サイトカイン類はメチル水銀を投与したマウスの脳中ミクログリアにおいて発現誘導されることも見出した。特にミクログリアから放出されたOSMは、神経細胞膜上に存在するTNFR3の細胞外ドメインに結合することで細胞死を誘導することや、この一連のプロセスがOSM中の105番目のシステイン残基にメチル水銀が直接結合することによって促進されることも明らかにしている。最近我々は、マウス脳スライスをメチル水銀で処理すると神経細胞死が誘導されるが、本細胞死はミクログリアを選択的に死滅させるクロドロン酸内包リポソームの処理によって抑制されることを見出した。また、メチル水銀に曝露したマウスでは記憶機能の低下が認められるが、この障害もミクログリア阻害剤であるPLX3397の同時投与によって抑制された。以上のように、メチル水銀はミクログリアを活性化させることで炎症性サイトカイン類の発現誘導および産生を介して周辺の神経細胞にダメージを与えることが示唆されている。本講演では、メチル水銀による脳神経障害におけるミクログリアの役割について紹介する。

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