主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
現在、10万種類にもおよぶ化学物質が工業的に生産され、医療や産業、さらには日々の生活にと幅広く利用されている。しかし、これら化学物質の中には、胎児期から乳幼児期に至る発達期の曝露により、成長後の行動異常を引き起こすものが少なからず存在する。てんかん治療薬であるバルプロ酸(VPA)を妊娠期に服用すると、児の知能指数が低下し、自閉症リスクが上昇する。胎児期にポリ塩化ビフェニル(PCBs)に曝露すると、成長後の記憶・学習障害や社会行動の異常が生じる。重金属や農薬にも同様の作用が認められているものがある。このような神経影響は発達神経毒性と称され、曝露(胎児期)から作用(成長後)まで時間を要することが特徴である。脳内の免疫担当細胞であるミクログリアは、発達期に不要なシナプスを貪食除去し、神経回路網の成熟に役割を果たしている。一方、ミクログリアの過剰な活性化は神経炎症を生じ、神経系に対して障害的に働くと考えられている。現在、ミクログリア活性の異常と神経疾患、精神疾患との関連も盛んに議論されており、また、重金属類や多環芳香族炭化水素など、様々な化学物質がミクログリアを活性化することが報告されている。私たちは、医薬品や環境化学物質のミクログリアに対する影響を調べ、また、異常に活性化したミクログリアを抑制する化学物質の網羅的な探索を行ってきた。本講演では、胎児期のバルプロ酸曝露により生じる神経系の障害について、ミクログリアと神経回路網に着目した成果を報告する。農薬であるネオニコチノイドや大気汚染物質PM2.5の神経影響についても、ミクログリアや神経炎症を中心に紹介したい。