主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
パーキンソン病(PD)は,黒質線条体路のドパミン神経の変性脱落により,無動・寡動,静止時振戦,筋強剛,姿勢保持障害などの運動症状を発現する進行性で原因不明の神経変性疾患である.孤発性PDの病態形成には酸化ストレス,炎症,ミトコンドリア機能障害,α-synuclein凝集体による神経毒性など様々な要因が考えられているが,特定の神経系が障害されるメカニズムは未だ明らかとなっていない.神経外環境であるグリア細胞は栄養供給や免疫作用により神経環境の維持に重要な役割を果たす一方,神経病態においては炎症反応を惹起し,神経障害に関与する.近年,活性化ミクログリアが細胞傷害性A1アストロサイトを誘導し,神経細胞死をもたらすことが報告され,神経変性疾患の病態形成におけるアストロサイト−ミクログリア連関が注目されつつある.さらに,グリア細胞は形態のみならず機能的にも一様ではなく,脳部位により多様性を示す.我々はこれまでに,グリア細胞の部位特異性がドパミン神経細胞に及ぼす影響について検討し,PD発症リクスを高める環境要因の一つである農薬ロテノン曝露は部位特異的なアストロサイト−ミクログリア相互作用を介してグリアの神経保護機構の破綻および炎症性サイトカイン産生を誘導し,非細胞自律性のドパミン神経障害を惹起することを見出した.さらに,ロテノンがアストロサイトを介してミクログリアに作用し,神経障害をもたらす知見を得た.本シンポジウムでは,アストロサイト−ミクログリア連関に関する最近の知見を紹介するとともに,グリア細胞の部位特異性に着目したパーキンソン病の病態形成メカニズムの解明について議論したい.