日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL
会議情報

教育講演
危険(かつての違法、脱法)ドラッグの現状を知り、これからを考える
*吉田 武美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

この国は、戦後からの第1次、第2次及び第3次覚醒剤乱用期から現在に至るまで、麻薬、大麻、コカイン、向精神薬等の法規制されている薬物乱用が大きな社会問題となっている。これらの乱用に伴う薬物依存の問題に加え、薬毒物による事故や事件も相次ぎ、有機溶剤シンナー乱用が社会問題となった期間もあり、LSD乱用によるサイケ調と称された社会風潮の時期もあり、国や都道府県による法規制や一般啓蒙活動が進められている。1980年代には、合成麻薬フェンタニルの構造の一部改変や官能基の組換えなどを行って合成された違法薬物、デザイナードラッグ,社会問題を引き起こしている。   

危険ドラッグは、2000年前後からフェネチルアミン類、トリプタミン類、ピペラジン類、亜硝酸アミル類や幻覚物質含有植物類が違法、合法、脱法ドラッグなどとも呼ばれ法規制を逃れての使用による事故や事件が多発した。呼称については、パブリックコメントを経て、危険ドラッグとの命名となり現在に至っている。その流れで、従来物質名による法規制を進めてきたこの国も、化学構造に基づいた包括指定の規制概念が2008年に導入され、一挙に数多くの物質が指定薬物として所持、使用、販売等が禁止された。しかし、包括指定を逃れるように、その後も合成カンナビノイド含有植物製品やカチノン誘導体などが現れ、中枢作用を有する各種の物質が国内外で使用されており、危険ドラッグとして指定される物質は後を絶たないのが現状である。特に、インターネットが普及し、グローバル化が進む中で、危険ドラッグ販売サイトから入手が比較的容易になっている。

このような状況の中、国は販売店舗立入、インターネット対策、指定薬物の迅速な指定、水際対策、事犯の摘発などに取り組んでいる。東京都や大阪府はじめ全国の数多くの自治体が、危険ドラッグ類似の化学物質に関する国内外の使用実態等の情報を一早く収集し、独自に薬理作用を検証し、国内外の使用状況や毒性など提示し、専門委員会の評価結果を基に、知事指定薬物とし、次いで大臣指定薬物へと規制を行っている。現在までに、カチノン系41種、カンナビノイド系62種、LSD系5種、ケタミン系10種が知事指定薬物となった。危険ドラッグが社会問題となる一方で、法規制のある麻薬、覚醒剤、大麻などの税関での押収量が膨大な量になっている現状も周知しておくべきである。この国は中枢作用薬物の使用汚染が広範にわたっていると考えざるを得ない。

以上のように危険ドラッグはじめ法規制薬物の乱用に関しては、国や地方自治体の規制強化や啓蒙活動により、鎮静化することもあるが、グローバル化の流れで終息するには至っていない。

医薬品や化学物質に携わる本学会会員の皆様が、この国の薬物乱用の実態を知り、社会的対応への関心をもっていただければ幸いである。

著者関連情報
© 2024 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top