主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】環境化学物質のビスフェノールA(BPA)は、その曝露と乳がん悪性化との関連が指摘されており、その要因として、ERやERRなどの核内受容体の活性化が考えられている。しかし、悪性化機構の詳細は不明である。我々はER陽性ヒト乳がんMCF-7細胞において、BPAの代謝物MBPがBPAよりも低濃度(< 1 nM)でERβの活性化を介して細胞増殖を促進することを見出した(Mol. Pharmacol., 95: 260, 2019; BPB, 44: 1524, 2021)。MCF-7細胞にはERα/βに加えて、細胞増殖“抑制性”の膜型ERであるGPER1が同時に発現していることから、本研究では、MBPによる乳がん悪性化におけるGPER1の関与について検討した。
【方法】ERα/ERβ/GPER1陽性ヒト乳がんMCF-7細胞を用いて、リアルタイムPCR、ルシフェラーゼアッセイ、およびMTSアッセイを行った。
【結果および考察】1 nM MBPはGPER1の発現を低下させた。一方、同濃度のBPAではGPER1の発現レベルに変化は見られなかったが、MBPと同程度のERの転写活性化を示す濃度以上ではGPER1の発現が低下した。GPER1のアゴニストG-1は、MCF-7細胞に対して抗増殖作用を示す。そこで、MBP曝露後のMCF-7細胞に対するG-1の影響を解析したところ、G-1の抗増殖作用が減弱した。MBPはERβを活性化することから、ERβの選択的アンタゴニストPHTPP存在下でMBPの影響を解析したところ、MBPによるGPER1の発現低下が抑制され、G-1による抗増殖作用の回復が見られた。以上より、BPAの代謝物であるMBPは、ERβを介して細胞増殖抑制性のGPER1の発現を低下させることにより、総じて乳がん細胞の悪性度を増加させることが示唆された。