主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
背景 イリノテカンの活性代謝物であるSN-38が起因となる有害事象により治療中断に至ることもあるため適切な薬学的管理が必要である。有害事象の一つである下痢の治療目的にロペラミドが投与されるが、本剤の腸管運動抑制作用はSN-38の排泄遅延に繋がり、さらなる有害事象を誘発する可能性がある。このように対症療法で用いる医薬品が引き起こす有害事象を把握することで安全な薬物療法の提案に繋がる。そこで本研究では、ロペラミドとイリノテカン誘発性有害事象との関係を評価した。
実験方法 WHOより提供される有害事象データベースであるVigibaseを用い、2022年12月までのデータを解析対象とした。イリノテカン使用例における併用薬と有害事象の関連を評価するために報告オッズ比(ROR)を算出した。有害事象の解析にFisherの正確確率検定を使用し、有害事象とのシグナルを検出するために、ロジスティック回帰分析を行った。
結果 解析対象の32,520,983件のうち、イリノテカン使用例は57,454件であった。そのうち、1,587件(2.8%)がロペラミドを併用していた。ロペラミドを併用した例では、好中球減少(ROR 1.37, 95% CI 1.20-1.57, P < .001)、貧血(ROR 1.81, 95% CI 1.43-2.30, P < .001)、および脱毛(ROR 1.89, 95% CI 1.30-2.74, P < .01)でシグナルを検出した。多変量ロジスティック回帰分析でも同様に、ロペラミドの併用は好中球減少、貧血、脱毛のシグナルを検出した。
結論 本研究ではロペラミドがイリノテカン誘発性有害事象の発現リスクに影響を与え、イリノテカンによる毒性を増強することが示唆された。今回用いた手法はイリノテカン使用時の対症療法薬を選択する際の有害事象発現リスクを予測する有用なものとなる。