主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
精巣を構成する細胞の多様さと複雑さから、雄性生殖障害の把握には多くの時間と労力を費やすため、迅速で簡便な評価法の開発が望まれる。精巣内環境の維持を担うセルトリ細胞の分子マーカーである中間径フィラメントビメンチンは、細胞支持の機能のみならず、細胞シグナル伝達や細胞遊走への関与が報告されている。加えて、がんや慢性炎症性疾患といった病態時におけるビメンチンの発現変化が注目されているが、セルトリ細胞障害の際のその発現変化については不明であった。そこで本研究では、迅速で簡便な雄性生殖毒性の評価法の開発に向け、セルトリ細胞に焦点を当て、その障害時におけるビメンチンの発現変化と精子形成不全との関係について検討した。
先行研究にて取得した精子形成不全の程度が異なるモデルとして、病理組織学的解析上、セルトリ細胞障害がほとんどなく、精子形成不全が軽度なビタミンE欠乏(VED; 飼料100 g中0.1 mg未満)マウスと、重篤なビタミンA欠乏(VAD; 飼料100 g中0 mg)マウスの精巣組織切片を用いて、ビメンチン抗体による免疫組織化学的検討を行った。具体的には取得した原画像をグレースケールに変換後、二値化処理し、ビメンチン陽性領域を抽出し、その後、各精細管横断面におけるビメンチン陽性領域が占める割合を算出した。その結果、精細管横断面におけるビメンチン陽性領域の割合は、対照群と比較してVED、VADマウス双方ともに有意に増加し、また、特有のビメンチンの伸張や集積も観察された。興味深いことに、VEDマウスでは、多くの精細管において形態異常が軽微にもかかわらず、その割合が有意に増加していた。このことは、精細管における形態異常よりも鋭敏にビメンチンの発現増加が認められたことを意味しており、迅速で簡便な雄性生殖毒性評価法の開発に向け、ビメンチンの発現変化に着目した本解析法が有用であることが示唆された。