主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】我々は生体リズムを考慮した毒性学を「時間毒性学」として展開してきた。銅の感受性時刻差について、朝方にかけては毒性が出にくい結果を得ているが、肝障害および腎障害に対する感受性時刻差を示す因子の解明には至っていない。そこで本研究では、銅の肝障害および腎障害の感受性時刻差の機序を肝臓および腎臓の培養細胞株を用いて解析し、比較検討した。
【方法】(1) マウス肝癌由来Hepa1-6細胞を用いて、銅処理における細胞増殖試験、時計遺伝子の発現量を測定した。また、時計遺伝子 (Ciart, Cry2, Per1) を過剰発現させた条件下での細胞増殖試験および銅の恒常性維持に関わる遺伝子、細胞周期や細胞死に関わる因子の解析を行った。(2) マウス近位尿細管様細胞株MuRTE61細胞についてもHepa1-6細胞と同様の手法で解析を実施した。
【結果】(1)銅処理により、3種類の時計遺伝子 (Ciart, Cry2, Per1) の発現量が増加し、さらにCry2, Per1の過剰発現で銅による細胞毒性は増強した。また、Cry2, Per1の過剰発現で取り込みに関与するCTR1の増加、排泄に関わるATP7Bの減少が認められた。また、アポトーシスの亢進が確認された。以上の結果から、夜中に発現量が高いCry2, Per1が銅トランスポーター機能を制御することで肝臓蓄積量を増加する結果、夜中の曝露では肝毒性が増強することが示唆された。
(2)銅処理により、3種類の時計遺伝子 (Bmal2, Cry2, Per1) の発現量が変化し、Per1の過剰発現で銅による細胞毒性は減弱した。また、Per1の過剰発現で銅シャペロンであるATOX1の増加が認められ、アポトーシスの減少が確認された。以上の結果から、腎臓においては Per1が分子シャペロンATOX1を制御することで腎臓蓄積量を減少する結果、腎毒性が緩和することが示唆された。
【考察】肝毒性と腎毒性でPer1が関与している点は共通であるが、その作用点は異なった。動物実験の結果では、肝臓での結果を支持しており、組織移行時間の違いに起因する可能性が考えられた。部分欠損マウスでの検討が必要かもしれない。