主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
我々は、抗がん剤であるシスプラチン(CDDP)による腎障害の詳細な機序を解明するために、マウス近位尿細管S1, S2, S3領域由来不死化細胞(S1, S2, S3細胞)を用いて検討を行ってきた。これまでの検討から、S1,S2細胞と比較してS3細胞がCDDPに対して高感受性を示すことを見出している。また、S3細胞にCDDPを低濃度から添加することでCDDPに約14倍の耐性を獲得した細胞(Cis-R細胞)を樹立した。そこで本研究では、S3細胞とCis-R細胞の比較を行うことでS3細胞のCDDPに対する脆弱性に関わる機序を明らかにすることを目的とした。
S3細胞とCis-R細胞においてCDDP添加後の細胞内Pt量を比較したところ、Cis-R細胞において高い細胞内Pt量を示した。一方、CDDP添加後のDNA中のPt量を比較したところ、Cis-R細胞において低い値を示した。CDDPは、細胞内においてタンパク質と結合することが知られていることから、「Cis-R細胞では、細胞質中にCDDPを捕捉するデコイタンパク質が高発現しており、それによりCDDPによる毒性が低くなっているのではないか」と仮説を立てた。マイクロアレイでコントロール細胞と比較してCis-R細胞でmRNA量が高く発現している遺伝子群を抽出したところ、CDDPと結合することが報告されているセレノシステイン含有タンパク質であるセレノプロテインP(SeP)がCis-R細胞において高発現していた。S3細胞に亜セレン酸を添加することで細胞内SePが誘導され、CDDPによる細胞毒性が抑制されることを検出した。また、S3細胞への亜セレン酸の添加で誘導されるCDDPに対する細胞毒性抑制作用が、SePのノックダウンによって消失した。これらの結果から、Cis-R細胞における耐性化の要因の一つとしてSePの関与が示唆された。