主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】ナノマテリアル(NM)は、比表面積の増加によって得られる特徴的な機能から、その有用機能が期待され、今後、その適用範囲は益々拡大すると考えられている。そのため、年齢・性別を問わず、誰もがNMを曝露し得る一方で、そのサイズの微小化に伴い、NMが予想外の生体影響を及ぼす可能性がある。本背景のもと、近年、POHaD(Paternal Origins of Health and Disease)に代表されるように、化学物質曝露が雄親および次世代に与える影響の評価に注目が集まっている。しかし、雄親曝露に着目したNMの次世代影響評価に関する研究は未だ遅れている。そこで本研究では、適用製品数の点で最も汎用されるNMの1つである銀ナノ粒子をモデルに、銀ナノ粒子の雄性生殖器への移行性を評価すると共に、銀ナノ粒子を投与した雄マウスを正常雌マウスと交配させ、雄親を介した次世代に対する影響評価を試みた。
【方法・結果・考察】6週齢のICR雄マウスに10 nmの銀ナノ粒子(nAg10)を2週間連続経口投与した。投与期間中、体重および摂餌量を測定したが、対照群と比較して有意な変動は認められなかった。最終投与後、血液、ならびに、精巣における銀量を誘導結合プラズマ質量分析法により解析した。その結果、nAg10を高濃度投与した群において、対照群と比較して銀量が有意に増加することが示され、経口投与したnAg10が腸管吸収され、精巣に移行することが示唆された。一方で、nAg10を投与した雄マウスと正常雌マウスを交配させ、出生仔数、仔の体重・身長を評価したところ、群間に有意な差は認められなかった。本研究により、銀ナノ粒子は腸管吸収され精巣に移行し得るが、本投与条件下では妊娠転帰に影響は認められない可能性が示された。今後は、より高用量、長期間で投与することで、雄親を介した次世代に対する影響を追究していく。