主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】細菌感染などの多様な外部刺激によって分極される炎症性マクロファージは、炎症性サイトカイン類の発現とともに活性酸素種 (ROS) を産生する。このROSは感染源の除去や炎症伝播を担うメッセンジャーとなる。一方で、セレン輸送タンパク質であるセレノプロテインP(SeP)から供給されるセレンは抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx) を誘導し、ROSを消去する役割を担うことから、炎症の終結に重要である。本研究では、炎症性マクロファージにおけるセレン代謝の変動およびその調節機構の解明を目的とした。【方法】セレン源として亜セレン酸およびヒト血漿より精製したSePタンパク質を用いた。マウス由来マクロファージRAW264.7細胞を用い、リポポリサッカライド (LPS) 刺激により炎症性マクロファージに分極させた。【結果および考察】炎症性マクロファージへの分極によって、SeP添加によるGPx1/4の発現誘導が抑制され、SeP受容体ApoER2も低レベルであった。また、取り込まれたSePは細胞内に貯留し、分解が阻害されていることが示唆された。亜セレン酸添加によるGPx1/4発現誘導も抑制されたことから、セレンの細胞内利用が阻害されていると考えられた。次に、炎症性マクロファージで顕著に誘導されるiNOSおよび一酸化窒素 (NO) がセレン利用阻害の実行因子である可能性を検証した。NOドナー (DETA NONOate) で未分極のRAW264.7細胞を刺激した結果、GPx1/4誘導の低下が再現された。さらに、iNOSを高発現させたヒト胎児腎由来HEK293T細胞でもGPxの発現低下が確認された。NOによるセレン利用抑制の詳細を解明するため、我々の研究グループが開発したセレノシステイン (Sec) 特異的な修飾検出法であるaBPML assayを行うと、NOドナー処理によるSeP中Secの修飾が確認された。さらに、鉛錯体法によりセレノシステインリアーゼ (scly) の活性を評価した結果、NOがscly酵素活性を阻害することが示された。以上から、炎症性マクロファージではセレン利用が抑制され、その実行因子としてNOが関与すると考えられた。