主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積に伴い引き起こされるプログラム細胞死であり、近年様々な疾患との関連が報告されている。一方、生体には酸化ストレスに対する防御機構である抗酸化システムが備わっている。抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やチオレドキシンレダクターゼは活性中心にセレノシステイン(システインの硫黄がセレンに置換したアミノ酸)を持ち、特にGPx4は過酸化リン脂質の還元能を持つことから本酵素の発現低下あるいは活性の抑制はフェロトーシス誘導に繋がる。
これらのセレン含有タンパク質の合成に必要なセレン供給において重要な役割を担うセレノプロテインP(Selenoprotein P, SeP)は分子内にセレノシステインを10残基保持し、主に肝臓で産生されて血中に分泌され、全身へセレンを輸送する。我々は最近、SeP発現による細胞内セレン恒常性制御がGPx4発現を介して、フェロトーシス感受性に影響することを見出した。興味深いことに、SePの主要な産生臓器である肝臓のがん細胞では、SeP分泌の抑制が細胞内セレンとGPx4の発現増加をもたらし、フェロトーシスに対しては保護的に働いた一方で、グリオブラストーマ細胞株ではSeP発現抑制により細胞内GPx4が減少しフェロトーシス感受性を示した。すなわち、SeP発現は他臓器へのセレン運搬に加え、オートクライン/パラクラインで取り込まれることで組織内のセレン循環においても重要な意義を持つ。
本発表では、SePによるセレン維持・運搬・循環システムについて概説し、SePを介した細胞内抗酸化能制御とフェロトーシス耐性との連関を示す。さらに、セレン恒常性破綻によるがんの進展・悪性化について、患者組織の免疫組織化学やin silico解析結果を交えて紹介し、SeP発現を焦点にあてたがん治療戦略を議論する。