主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
細胞内で働く大部分のタンパク質は、多様な翻訳後修飾を受けることで機能や局在が調節されている。近年、ヒストンを始めとした一部のタンパク質において、環境由来のカルボン酸に起因する翻訳後修飾が引き起こされうることが明らかになってきた。我々は、これらの環境由来カルボン酸が引き起こす新たな翻訳後修飾の探索と、この修飾によって引き起こされる生命現象の解明を目的として研究を行っている。本シンポジウムではその中でも、食事とともに摂取する食品添加物が引き起こす新たな翻訳後修飾について、保存料として広く使用されているソルビン酸が引き起こす翻訳後修飾に関する研究成果を中心に紹介する。
我々はソルビン酸が複数の細胞種において、処理濃度依存的にヒストンのリジン残基のソルビル化を引き起こすことを見いだした。質量分析による修飾解析から、ソルビル化が主にヒストンH2BのN末端において惹起されることを見いだし、本修飾を部位特異的に認識する抗体を作製した。この抗体を用いた解析により、リジンソルビル化が可逆的であること、さらにリジン脱アセチル化酵素HDAC1/2がヒストンソルビル化の脱アシル化活性を有することを明らかにした。驚くべきことに、脱アシル化酵素であるHDAC1/2が、ソルビン酸を用いてヒストンのリジン残基を直接ソルビル化するアシル化活性も有することを見いだした。また、RNA-seq解析およびRT-qPCRによって、ソルビン酸がヒト肝臓がん由来HepG2細胞においてコレステロール合成遺伝子の発現を亢進させることを見いだした。CUT&Tag法によるゲノムワイドなソルビル化部位の解析結果から、H2Bのソルビル化は遺伝子のプロモーター領域に集積していることを発見した。これらの結果から、ソルビン酸がヒストンソルビル化によるエピジェネティックな遺伝子発現変動を引き起こす可能性が示唆された。