日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S34-3
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シンポジウム34: がん化学療法剤による末梢神経障害:メカニズムと予防・治療法
化学療法誘発性末梢神経障害の発症メカニズムとリスク因子の解析
*川畑 篤史
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抄録

米国臨床腫瘍学会ガイドラインでは、臨床的に有効な化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)発症予防薬はなく、唯一、デュロキセチンのみが発症したCIPN治療への応用を支持する適切なエビデンスがあると記されている。我々は基礎研究により、CIPN発症にマクロファージ(Mφ)などから細胞外に放出される核内タンパクhigh mobility group box 1 (HMGB1)が関与することを見出だし、このHMGB1をトロンビン依存性に不活性化するDIC治療薬トロンボモジュリン(TM)アルファ(TMα)がCIPN発症を阻止することを見出だした。その後、TMαの抗CIPN効果はヒトでも実証され、日米国際共同の臨床試験が現在も進行中である。一方、我々はCIPNのリスク因子を解析する臨床基礎統合研究を実施している。抗凝固薬を投与したマウスでは外来性に投与したTMαの抗CIPN効果が消失すること、また抗凝固薬によってトロンビンの産生・活性が阻害されると内皮TMによるHMGB1分解が抑制されて血中HMGB1濃度が上昇しCIPNが重症化することが判明した。これらの知見に基づいて実施した臨床研究では、抗凝固薬投与患者や血液凝固活性が低い患者ではCIPNが重症化しやすいことを見出だした。一方、パクリタキセル(PCT)投与乳がん患者のCIPNは閉経後に重症化するとの臨床知見が得られたことより基礎研究を実施し、卵巣摘出マウスではPCTによるCIPNが増悪すること、エストロゲンがPCTによるMφからのHMGB1遊離を抑制し、卵巣摘出マウスにおけるCIPN増悪を抑制することを明らかにした。このため、CIPN重症化リスクの高い閉経後患者にPCTを含むレジメンを使用する場合、TMαなどを用いる予防的介入が推奨される。このようにCIPNの病態解明や予防戦略構築では臨床基礎両面からの統合的アプローチが効果的である。

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