2021 年 9 巻 1 号 p. 84-90
目的 本研究では,先行研究の少ない,中山間地域に居住する高齢者を対象として,中山間地域のソーシャル・キャピタルの構成要素に成り得る「地域への愛着」や「自然との共生意識」に着目して主観的健康状態との関連を明らかにすることを目的とする。
方法 岐阜県(A市),群馬県(B町)に住む公民館活動等に参加している65歳以上の高齢者を対象に無記名自記式質問紙による集合調査を実施し406人から回答を得た。一次分析は各調査項目の基本統計量を算出し,二次分析としてソーシャル・キャピタル(以下,SC)の各因子の構成項目の内的整合性の確認のため信頼性分析を行った。内的整合性を確認した上で,各項目が主観的健康状態に与える影響の程度を明らかにするために,年齢,性別,出身を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。分析は統計解析ソフトIBM SPSS statistics 27を用いた。なお,有意水準は5%(両側)とした。
結果 調査対象者406人の平均年齢は75.1±5.9歳,性別は「男性」113人(27.8%),「女性」292人(71.9%)であった。主観的健康状態は「良い/まあ良い」209人(51.5%),「ふつう/あまり良くない/良くない」192人(47.3%)であった。主観的健康状態とSCの構成項目「地域に対する気持ちや態度」(オッズ比(以下,OR):1.102,95%信頼区間(以下,CI):1.040-1.167,P=0.001),「自然との関係性」(OR:1.207,95%CI:1.085-1.343,P=0.001)で正の関連性が認められた。「地域の人や近所の人との人間関係」(OR:0.997,95%CI:0.937-1.060,P=0.914),「地域内の関係性」(OR:0.888,95%CI:0.720-1.095,P=0.267),「政治意識」(OR:1.069,95%CI:0.869-1.315,P=0.529)では関連性は認められなかった。
結論 中山間地域に居住する高齢者のSCの構成要素になり得る「地域への愛着」や「自然との共生意識」は主観的健康状態と良好な関連があることが示唆された。