運輸政策研究
Online ISSN : 2433-7366
Print ISSN : 1344-3348
書評
現代物流産業論
─ロジスティクス・プラットフォーム革新─
渡部 大輔
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2023 年 25 巻 p. 66

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抄録

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い,いかなる場合も供給を止められない生活必需品や医薬品などを届けるエッセンシャル・ワーカーとして,物流の重要性が改めて見直されている.一方,これまでの物流産業は,規制緩和による過当競争や少子高齢化に伴う労働力不足の深刻化など厳しい環境に置かれてきた.更に,近年のネット通販を中心とした宅配需要の急拡大に見られるように,荷主や消費者を巻き込んで大きく業態が変化し続けてきた.このような物流産業における問題解決や新たな付加価値の創出に向けた革新(イノベーション)が求められており,とりわけ本書の副題でもある「ロジスティクス・プラットフォーム」(LPF)に対する関心が高まっている.本書は,陸・海・空の実運送に関わる国内外のキャリア,倉庫,フォワーダーなど物流事業者とともに,荷主,コンサルタント,行政関係者,研究者,大学生・大学院生など,物流に関する様々な主体を対象として,コロナ禍で大きな変化の真っただ中における執筆段階(2022年2月)での最新の情報に基づく現状や今後の展望を把握するのに最適な書籍である. 本書は10章から構成され,領域別に大きく4つのパートに分かれている.パート1(第1~5章)が国内物流,パート2(第6・7章)が米国小売物流,パート3(第8・9章)が国際物流,パート4(第10章)が展望となっている.パート1では,物流産業組織の革新,トラック運送事業における労働力不足と労働生産性,物流産業におけるプラットフォーム革新,宅配危機における宅配便の革新,ネット通販事業者のロジスティクス革新を扱っており,国内物流に関する業界の課題とそれに対する最新の取組を紹介している.パート2では,アマゾンのLPF戦略,コロナ下における米国小売業者のロジスティクス展開を扱っており,ネット通販を中心とした米国小売物流の最新動向を紹介している.パート3では,コンテナ物流事業と航空貨物輸送事業の構造変化を扱っており,メガキャリアやメガフォワーダーなどによる市場再編を紹介している.最後にパート4では,物流危機や気候変動問題に対応した持続可能なロジスティクスを目指した取組を紹介している.このように各章はパート内で内容がまとまっており独立に読むことができるものの,パートをまたいで相互に関係する章を比較しながら読み進めることでより深い考察が得られる.例えば,コロナ禍を経て更に成長著しいネット通販に関して,日本(4・5章)と米国(第6・7章)を対比させることで,国際比較を行うことが可能である. 本書の特徴として,プラットフォーム(PF)の視点から物流企業の動向を詳説し,物流産業の構造変化を分析していることが挙げられる.つまり,これからの物流産業においては,ハード面の機材や施設,インフラとともに,ソフト面のPFに対する重要性が増していると言える.LPFは物流企業における基盤的側面とともに,荷主企業における生産・流通等の基盤的PFの側面を有しており,業種をまたいだ大変複雑な形態となる.そこで本書では,LPFを内部,サプライチェーン,産業,テクノロジーの4類型に分類した上で,物流産業と製造業・流通業におけるLPFの構造について事例を基に分析している.とりわけ,近年期待の高まっているDXの実現に向けた自動化やデジタル化に関するテクノロジーPFに関する最新動向がまとめられていることも特筆すべき点である. 以上のように,本書は,コロナ禍での大きな変化を経て,益々重要性が増している物流に対する総合的な知識を養い,視座を高められることから,関係者にとっては必読,必携の書であると言える.そして将来的に,未曾有のパンデミックという歴史的な出来事に対する定点観測としての資料的価値が非常に高くなると考えられる.また,物流と関係が深い道路や港湾,空港などのインフラ整備に関する交通政策の検討にも非常に有用な書と思われ,ぜひ一読をお勧めしたい.

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