運輸政策研究
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最新号
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政策研究論文
  • 酒井 達朗
    原稿種別: 政策研究論文
    2023 年 25 巻 p. 6-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/08/26
    ジャーナル 認証あり

    地域公共交通の基幹である乗合バス事業については,特に,地方部生活路線において,多く国や自治体からの公的な補助によって維持されている.近年,この公的補助の中核である国土交通省の補助事業においては,補助対象路線へ定量的な収支改善インセンティブを課す施策が進められている.本論文では,規制緩和後10年間の乗合バス事業者の経営状況のデータから乗合バス事業者の収支改善要因を分析することにより,こうした施策が果たして適切なものであるのかを検討した.結果,事業収支には地域要因が大きく,地方格差を無視した現行政策は事業者の健全な収益向上努力ではなく,単なる生活路線の切り捨てに繋がる可能性が高いことが示唆された.

  • 山本 卓登
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 25 巻 p. 18-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/12/16
    ジャーナル 認証あり

    2002年の乗合バスにおける需給調整規制の廃止に伴う補助金制度の見直しにより,不採算バスに対する公的資金の投入は,幹線路線に対しては国が,その他の路線に対しては自治体が分担した上で,自治体負担について特別交付税による財源措置を行うこととなった.不採算バスに関する特別交付税措置は1969年頃に始まり措置の充実化が進められた.しかし,この措置は定率の特定補助金的性質を持ち,ナショナルミニマムの観点からの財源措置としては不適切である.定額の特定補助金的性質を持つ財源措置に変更する必要がある.また,算定基準の改定時期や項目別算定結果の非開示により,自治体が本措置を踏まえた予算を組むことが難しくなっている.

  • 土方 まりこ
    原稿種別: 政策研究論文
    2023 年 25 巻 p. 29-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2023/02/13
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,欧州連合(EU)の競争政策によって規律されているドイツを対象として,バスによる近距離路線輸送サービス(路線バス)の確保に向けた,各地の行政当局(任務担当者)の取組の実態を把握することを目的として行った.この目的を達成するために,運行の態様別に相違する,複数の法令による規定の内容を整理するとともに,任務担当者に対するアンケート調査も実施することにより,路線バスサービスの調達についての考え方におけるEUと任務担当者の間の差異の存在等を明らかにした.併せて,任務担当者が路線バスサービスの確保に自律的に取り組めることを担保すべく,連邦法によって支援の仕組みが構築されてきたこと等も指摘した.

報告論文
  • 飯田 純也, 西田 知洋
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 25 巻 p. 40-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/06/13
    ジャーナル 認証あり

    国土交通省は港湾関連行政手続の電子申請率向上を掲げているものの,近年,電子申請率は頭打ちになっている.本稿では,紙やFAXでの申請を行う者が電子申請を行わない要因を把握し,電子申請率向上に向けた方策の検討を行う.アンケート調査・分析の結果,主な要因として,紙申請の方が便利/システムを利用する動機づけがない/港湾管理者側(受理側)の事情で電子申請できない,が抽出された.また,港湾管理者が電子申請率の向上に重要な役割を果たす可能性が示された.電子申請率向上に向けては,システムの機能・運用改善等を行った上で,過去からの習慣等に起因して解消が難しい要因に対しては,インセンティブ導入も有効と考える.

  • 味水 佑毅, 根本 敏則, 倉橋 敬三
    原稿種別: 報告論文
    2023 年 25 巻 p. 52-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/07/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,人の移動を対象とするMaaSの特徴を確認し,欧州におけるトラックデータの標準化,FMS(運行管理システム)サービス市場形成の経緯とその意義を明らかにすることを通じて,日本で物流MaaSを推進する上で必要なトラックデータの標準化,FMSサービス市場の現状と課題について論じた.考察を通じて,物流MaaSを推進するためには「トラックデータの標準化」,「物流・商流データのマッチング」,「FMSサービス市場の拡張」が重要であることを確認した.トラックデータの標準化は物流MaaS以外でも社会的に重要な役割を果たすため早急な整備が必要であり,今後,新たな価値の創造のための関係構築が重要である.

書評
  • ─COVID-19以後の「新しい観光様式」─
    矢ケ崎 紀子
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/07/20
    ジャーナル 認証あり
  • 川端 祥司
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/06/22
    ジャーナル 認証あり
  • ─日本の商業と中心市街地活性化法制─
    髙橋 愛典
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 64
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/07/07
    ジャーナル 認証あり
  • ─グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?─
    柴崎 隆一
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2022/08/24
    ジャーナル 認証あり
  • ─ロジスティクス・プラットフォーム革新─
    渡部 大輔
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2023/01/31
    ジャーナル 認証あり

    新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い,いかなる場合も供給を止められない生活必需品や医薬品などを届けるエッセンシャル・ワーカーとして,物流の重要性が改めて見直されている.一方,これまでの物流産業は,規制緩和による過当競争や少子高齢化に伴う労働力不足の深刻化など厳しい環境に置かれてきた.更に,近年のネット通販を中心とした宅配需要の急拡大に見られるように,荷主や消費者を巻き込んで大きく業態が変化し続けてきた.このような物流産業における問題解決や新たな付加価値の創出に向けた革新(イノベーション)が求められており,とりわけ本書の副題でもある「ロジスティクス・プラットフォーム」(LPF)に対する関心が高まっている.本書は,陸・海・空の実運送に関わる国内外のキャリア,倉庫,フォワーダーなど物流事業者とともに,荷主,コンサルタント,行政関係者,研究者,大学生・大学院生など,物流に関する様々な主体を対象として,コロナ禍で大きな変化の真っただ中における執筆段階(2022年2月)での最新の情報に基づく現状や今後の展望を把握するのに最適な書籍である. 本書は10章から構成され,領域別に大きく4つのパートに分かれている.パート1(第1~5章)が国内物流,パート2(第6・7章)が米国小売物流,パート3(第8・9章)が国際物流,パート4(第10章)が展望となっている.パート1では,物流産業組織の革新,トラック運送事業における労働力不足と労働生産性,物流産業におけるプラットフォーム革新,宅配危機における宅配便の革新,ネット通販事業者のロジスティクス革新を扱っており,国内物流に関する業界の課題とそれに対する最新の取組を紹介している.パート2では,アマゾンのLPF戦略,コロナ下における米国小売業者のロジスティクス展開を扱っており,ネット通販を中心とした米国小売物流の最新動向を紹介している.パート3では,コンテナ物流事業と航空貨物輸送事業の構造変化を扱っており,メガキャリアやメガフォワーダーなどによる市場再編を紹介している.最後にパート4では,物流危機や気候変動問題に対応した持続可能なロジスティクスを目指した取組を紹介している.このように各章はパート内で内容がまとまっており独立に読むことができるものの,パートをまたいで相互に関係する章を比較しながら読み進めることでより深い考察が得られる.例えば,コロナ禍を経て更に成長著しいネット通販に関して,日本(4・5章)と米国(第6・7章)を対比させることで,国際比較を行うことが可能である. 本書の特徴として,プラットフォーム(PF)の視点から物流企業の動向を詳説し,物流産業の構造変化を分析していることが挙げられる.つまり,これからの物流産業においては,ハード面の機材や施設,インフラとともに,ソフト面のPFに対する重要性が増していると言える.LPFは物流企業における基盤的側面とともに,荷主企業における生産・流通等の基盤的PFの側面を有しており,業種をまたいだ大変複雑な形態となる.そこで本書では,LPFを内部,サプライチェーン,産業,テクノロジーの4類型に分類した上で,物流産業と製造業・流通業におけるLPFの構造について事例を基に分析している.とりわけ,近年期待の高まっているDXの実現に向けた自動化やデジタル化に関するテクノロジーPFに関する最新動向がまとめられていることも特筆すべき点である. 以上のように,本書は,コロナ禍での大きな変化を経て,益々重要性が増している物流に対する総合的な知識を養い,視座を高められることから,関係者にとっては必読,必携の書であると言える.そして将来的に,未曾有のパンデミックという歴史的な出来事に対する定点観測としての資料的価値が非常に高くなると考えられる.また,物流と関係が深い道路や港湾,空港などのインフラ整備に関する交通政策の検討にも非常に有用な書と思われ,ぜひ一読をお勧めしたい.

  • ─10のステップでつくる歩きたくなるまちなか─
    谷口 守
    原稿種別: 書評
    2023 年 25 巻 p. 67
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/11
    [早期公開] 公開日: 2023/01/31
    ジャーナル 認証あり

    本書の原題はWALKABLE CITY: How Downtown Can Save America, One Step at a Timeで,原著は2012年に米国で出版されている.著者のジェフ・スペック氏は全米の都市デザイン市長協会を主宰してきたコンサルタント会社のトップで,ジェイン・ジェイコブスらも受賞した「シーサイド賞」を受賞している.

    全体がわかりやすい日本語に翻訳され,サブタイトルの通り10ステップに整理されているため,興味のあるところだけを飛ばし読みできる構造になっている.ただ,この中身のアンコもさることながら,それを包む前後のガワが秀逸だ.お勧めの読み方は,まず巻末の監訳者の松浦氏らによる解説を読むことだ.ここだけで直近の日本国内の政策やコロナ禍での対応に関する俯瞰も含め,本書を取り巻く現状と課題の短時間でのアップデートが可能となる.そして,次に読むべきが,最初のPARTⅠ「ウォーカビリティがなぜ重要か」だ.都市構造や人口動態の変化,価値感の転換など,ウォーカビリティの重要性を具体の数値データから見事に解きほぐしている.これらのガワだけで実は本書の元が取れてしまうのである.

    一方,アンコに相当する10ステップ全部の紹介はネタバレになりそうなので,試しに4つだけ抜き出すと,1)車を適切に迎え入れよう,2)用途を混在させよう,4)公共交通を機能させよう,9)親しみやすくユニークな表情を作ろう,といったことが整理されている.ステップ全体を通じて納得できることばかりだが,読んでいて何かが心に引っかかる.記憶をたどると,これらはすべて昭和の日本の都市が実現していたことではなかったか.粗っぽい表現をお許しいただければ,本書は昭和の日本の都市空間をお手本として目指せと言っているように私には読めてしまう.

    先住民を隅に追いやり,広い国土で自動車前提のまちづくりを進めてきた米国は,ようやく自動車前提ではないまちづくりの重要性に今「論理的に」気付いたのだ.このため,著者は現在まで自動車道整備を進めてきた交通エンジニアに対し痛烈な批判を展開している.一方,日本ではかつて身近に溢れていたウォーカビリティを市民自らが積極的に放棄してきた.ちなみに,わが国では大型ショッピングセンターのある自治体の居住者の方がそうでない者より居住満足度が高いことが有意に示されている.日本人が求めているのは,実際の都市空間ではなく,車が無いと行けないショッピングセンターでのウォーカビリティなのだ.その意味で本書のアンコから受ける示唆は,マグドナルドやスタバが席捲するわが国において,接する機会の減った和食のすばらしさを海外から指摘される感覚に近い.

    ウォーカビリティの重視は何も米国だけの話ではなく,たとえばフランスのベルアペゼ(穏やかな空間づくり)など,今や世界の潮流である.そこでは単に道路や交通手段に着目するだけでなく,本書の問いと同じくまちづくり全体を見直す動きと連動している.車前提の大型ショッピングセンターの中の方が歩きやすくてそれでいいやと思っている限り,わが国のウォーカビリティ整備の多くは空を切るだろう.その意味で「本書は交通の専門家にお勧め」,などという生ぬるいコメントではなく,日本人として今まで我々が何を自ら進んで放棄してきたのか,一人でも多くの国民が本書に触れることで厳しく自省すべきである.

    余談だが,個人的には地域選別の概念を示す「アーバン・トリアージ」という用語が本書で提案されていて驚いた.実は評者も全くの同用語を地域の破綻を事前回避するための概念として2006年に学会発表したが,集中批判を浴びて大炎上した経験を持つ.その後,分析対象であった夕張市が実際に破綻したために結果的に溜飲を下げることにはなった.本書より,無理筋の総花的成長を追うのではなく,適切な選別・撤退を行うことに,ようやく社会的な認知が得られるようになってきた空気の流れを感じる.そしてそれは素直に喜ばしいことである.

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