抄録
ユング『自伝』末尾で自分は「障壁の背後の過程」をある程度 知覚すると述べた。本論文は、この「知覚」が彼の心理学的な 仕事において本質的な役割を果たしていることを示そうとする。 メルロー=ポンティが明らかにしたように、知覚は根源的臆見 (Urdoxa)に根差しており、ユングの言葉は、無意識過程が彼に とってある程度実在として現れていたことを示唆している。彼の 仕事は、従来想定されていたように、臨床データと秘教的文献か ら無意識の知的モデルを構成する試みではなく、壁の背後に知覚 されるこの実在を同化しようとする努力である。このことが研究 者たちを困惑させてきた彼の仕事の奇妙な諸特質を理解させてく れる。そしてユングの仕事が、近代的世界観の閉塞を打開する独 自の可能性を持つ理由もそこにある。