抄録
東京大学柏キャンパスに植栽されたカツラ(Cercidiphyllum japonicum Sieb.et Zucc.)において,梢端枯れと幹の腐朽被害が発生している.そこで本研究では,健全木と梢端枯れ・腐朽被害木の葉の形態と生理特性の違いを明らかにするため,葉面積など葉の形態的特徴と,水ポテンシャル及び光合成蒸散速度の日変化を測定した.葉面積重,葉内窒素濃度,葉緑素量には梢端枯れ・腐朽木と健全木で差がなかったが,一枚当たりの葉面積は腐朽木で顕著に低かった.夜明け前の水ポテンシャルは梢端枯れ木,腐朽木ともに低く,これらは健全木に比べ水ストレスを受けていると考えられた.しかし,梢端枯れ木は健全木と同等の日光合成生産量・日蒸散量を示したのに対し,腐朽木のそれらは有意に低かった.したがって,腐朽木では日単位での生理機能に水ストレスの影響が現れている一方,梢端枯れ木は以前の水ストレスで梢端枯れを起こしたが,残されている葉には日単位での水ストレスの影響が現れていないと考えられた.