Tropics
Online ISSN : 1882-5729
Print ISSN : 0917-415X
ISSN-L : 0917-415X
アジアの湿潤熱帯の地域区分に向けて
Peter S. ASHTON
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 1 巻 1 号 p. 1-12

詳細
抄録
Championの東南アジアの熱帯低地林の分類は第1に気候区分(最寒月の平均気温,年降水量,乾季の長さと回数). 第2に航空写真などによる広範囲の地表観測によるもので,熱帯アジアの森林の諸型を比較しての充分な検討は加えられていない.特に無季節性や弱い季節性しかない地域の森林(林冠樹種に優占種がない混交林:Champion の森林型分類の湿潤常緑林)は充分なデータで論じられているとはいえない.
中略
季節常緑林の境界も検討しなければならない. 常緑ー半常緑低地林の境界は降水量と緯度(最寒月の気温)で境されるとChampion はしている.さらに年降水量2500mm 以下や乾燥が数箇月に及ぶ地域にも半常緑林が成立するとした.このような気候要因だけがが落葉性に結びつくとするのは不充分である.マレ一半島北部やスリランカ北部や東部の森林は少ないが定常的な降水に恵まれた地域に成立しているが高さの低い落葉樹を交えた常緑林になる.林冠樹木の落葉性は降水の季節分布に関係してはいるが,また森林破壊の結果の二次林や遷移の途中の林にも見られるものであるし,貧栄養土壌にも結びついている.
土地条件と植生型の関係についてはまだあまり詳しい分析はなされていない.しかしボルネオでの結果は樹種や樹木構造と土壌条件の密接な関係を明らかにしている.ボルネオではもっとも主要な森林型の相違は相対的に高いpH と高濃度の栄養塩類の土壌(udult soils) に成立する森林と低いpHで粘土含有量や栄養塩類含有量も低い土壌(humult ultisols) の間に見られ,森林を構成するフタバガキ科樹木の種類が異なっている.ボルネオではhumult ultisols に分布する種がマレーでは尾根や海岸近くの痩せ地に分布することがあるし,スリランカの湿潤森林でもhumult sols に特徴的な樹種が知られている.またインドからミャンマーの常緑林地域でも石灰岩地域には特徴的な樹種の森林が分布する.
インド半島西部の湿潤常緑林は,特徴的な樹種を有しているし,それより内陸部に分布する半常緑林もマレー半島北部からミャンマー,チッタゴン,インドシナ半島にかけて分布する季節常緑混交フタバガキ林とは異なる樹種構成を有している.さらにこの季節常緑混交フタバガキ林よりも北に2つの森林型が存在する.一つは5ヶ月以上の乾燥期間を有する地域の森林で,タイで乾燥常緑林として知られ,多くの落葉性林冠樹種を有している.また竹類が多く,定期的な火入れ効果を示している. もう一つは北方季節常緑フタバガキ林で,東アジアの低地熱帯林ではもっとも緯度の高い地域に位置する.この林はアッサム地方から中国南部にかけてみられ,年降水量は2000mm以上あり,乾燥期間は短いが,明らかな低温期間が存在する.この植生帯の北部(中国大陸南部)は放牧と耕地化で破壊が進み多くの温帯系の草本植物が見られる.
アジアの乾燥森林気候域はいろいろな落葉森林が分布しているが,それらの成立には火入れが生態的要因として重要である. Champion は相観学的・季節学的な特徴を植物相的な特徴の上において主要な森林型の分類を行なっている. 彼は落葉型の森林に,フタバガキ科のサルShorea robusta を有する北方型の(Dry Deciduous Dipterocarp forest) とチークTectona grandis がしばしば優占する南方型(Moist Deciduous forest) を区別している. しかもそれらには混交落葉林も含められている. しかし,インドからベトナムに広がる混交落葉樹林は特徴的な植物相を有し,地形的にも連続するものであるし,サルとチークは分布地域が別れ,同じ林を作ることはない. 両者が成育する土壌条件も異なる. またインドに分布するサル林とインドーミャンマー地域の乾燥落葉フタバガキ林とでは,後者はサルを欠き,代わりに固有のフタバガキ科樹種が見られる.なにをもって落葉型の森林を区別するのか問題が残る.
植物相の解析なしには,森林調査や利用に有効な森林の分類を進めるのは不充分である.前ページの表に新しいアジア熱帯地域森林帯の地域区分の試論をまとめておく.
著者関連情報
© 1991 日本熱帯生態学会
次の記事
feedback
Top