Tropics
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チーク植林地におけるタウンヤ農民の行動様式に対する生態条件の影響:ミャンマ一連邦バゴ一山地を事例として
谷 祐可子
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2000 年 10 巻 2 号 p. 273-286

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抄録

タウンヤ法は農作物の間作を伴う造林方法であり, 19 世紀英領ビルマで始まったとされ,現在では荒廃地における造林事業に多数の国々で採用されている。タウンヤ農民の行動を理解することは,タウンヤ法による造林事業をよりよく管理するために重要であるが,これまでタウンヤ農民の行動様式や態度に関する研究は限られていた。本稿では,ミャンマ一連邦パゴ一山地における事例を通して,生態学的な要因とビルマ人の慣習的な土地制度が,造林プロジェクトに対するタウンヤ農民の態度に影響を及ぼしていたことを論じる。日本における国有林に相当し,法律に基づいた厳重な管理の下におかれるはずのリザープド・フォレストの中には,山間低地および斜面を利用して農業を営んでいる耕作者がいる。こうした耕作者の何人かは,造林プロジェクトの労働力として森林局に雇用され,造林される斜面での耕作を中止することになるが,他方で同時にこの事業自身がタウンヤ農民に山間低地の利用を黙認することによって彼らを新たな耕作者としてリザープド・フォレストの中に配置していることが聞き取り調査により明らかになった。耕作者の吸収と創出という過程を通じて,森林局は遠隔地における造林目標を達成し,リザーブド・フォレストの境界を確定してきた。しかしながら,林内の耕作者の採用は不確実であり,山間低地が素材本行政から漏れるという事実から計画的な人工林経営は困難であるといえる。さらに耕作者はリザーブド・フォレストの中に住むための法的権利を与えられない上に,教育や医療などの行政的なサポートもほとんど受けられないことから,奥地における潜在的な造林労働力である林内耕作者の生活基盤は不安定であると考えられる。こうした状況の下で,安定した持続的な人工林経営を実現するためには,林野行政および社会福祉への一層の投資が必要となり,森林局は財源を確保するための方策を考える必要があろう。

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© 2000 日本熱帯生態学会
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