Tropics
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熱帯産フサカChaoborus (Edwardsops) magnificus の新月羽化
福原 晴夫Gerald Eustaquio TORRESSonia Maria CLARO MONTEIRO
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1992 年 2 巻 1 号 p. 29-34

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抄録
アフリカ熱帯湖沼の底生動物について,ライトトラップによる採集結果より,新月の夜に羽化する種の存在が予想されていたが,ライトトラップによる採集結果は,特に夜間の照度に大きく影響されるため,羽化時期の直接的な証明にはなり難かった。そこで,本研究ではエマーゼンストラップを湖に連続的に設置し,羽化した成虫を採集することにより,ブラジルの熱帯湖においてフサカの一種Chaoborus (Edwardsops) magη析cus が新月の夜から大量に羽化を開始することを直接的に証明した。
ブラジル南東部のRio Doce 湖沼群の一つ, Dom Helvécio湖(19°47&rsqu;S, 42°35&rsqup;W; 最大水深33m,面積6.9 km2)で調査を行なった。本湖は乾期, 7 月から8 月にかけて一度だけ循環する貧栄養湖に属する熱帯湖で,底生動物では4 種のフサカ幼虫のみが深底帯に分布する。湖心部に2 基のエマーゼンストラップ70 cm &time; 70 cm) を水表面下1m に1987 年7 月10 日から7 月31 日まで設置し,ほぼ毎日羽化成虫を採集した。調査期間中では一種(C. magnificus) のみが多く(981個体のうち95%) 採集され,その羽化は7 月26 日をピークに突然開始された(Fig. 1)。この日の羽化の99.7% は明け方の3:00 から6:00 の間に起きた。羽化の多かった4 日間に調査期間全体の95% が採集された。調査期間中の表層水温の変化はわずか0.4°Cであり,日長の変化も12 分であった。またこの羽化の前後で気象条件の顕著な変化はなかった。この様な安定した環境条件下で特に顕著な点は7 月26 日が新月であったことである。羽化の開始時に雄が多く,続いて雌が羽化してくる(Fig.2) 典型的な双題目昆虫の羽化パターンを示すことより,この羽化は, Gliwicz (1986) が報告したような新月に魚類の補食圧が弱まることによる見かけ上の羽化個体数の増加現象と見ることは出来ない。アフリカ熱帯において報告されているライトトラップによる結果などから新月(0 時の月齢は0.3日)に本種が羽化を開始したものと推定した(Fig. 2)。プランクトンネットで採集した幼虫の令構成も新月に近付くにつれて4 令の割合が高くなり,月周による成長の向調と新月羽化の可能性を示唆する(Fig. 3)。材重の幼虫は表層への日垂直移動を行い,月光を同調因子として利用出来る可能性がある。
熱帯湖のような年間の温度較差が極めて少なく,日長の変化も小さな安定した環境下においては,ある種の動物の生活史に月周期が同調している可能性を指摘した。また,同調性羽化の適応的意義についても考察した。
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© 1992 日本熱帯生態学会
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